いい加減、みんな諦めてくれればいいのに。
何を言われても、理解は出来ても実行に移す気はないのに。

どうして、みんな人の世話を焼きたがるのだろう。
それだけ、『自分は余裕があります』って言いたいのだろうか。
そんなの、俺からすれば迷惑でしかない。
この新しい医者も、今までの医者と同じなのだろうか。
ふいに、訊いてみた。



「なぁ、アンタも俺に説教するの?」

俺の質問に通算10人目の精神科医は、どこか裏を感じさせる人好きする笑みを浮かべ答えた。
そんな意味のないことはしないよ、と。

本心からの笑顔浮かべて言ってんだったら信じないけれど、嘘くさい笑顔はどこか信じられそうだった。
そして、説教を『意味のないこと』って言ったアンタはキライじゃないよ。
食えないやつって気がしないでもないけどな。

「じゃあ、あんたは言わないの?
 『君の気持ちは解る。でも、リストカットをして何の意味がある?
 君を心配してくれる人たちのことも考えてみようよ?』、とか。」

否定されることは解っていたけど、それでもこの医者がなんて言うか知りたくて訊いた。

「言わないよ。
 だから、言ったでしょ? 
 意味のないことはしない、って」

含んだ笑みといっしょに答えられる。

「じゃあ、アンタが言う『意味のあること』って何?」

アンタは一瞬驚いた顔をして笑った。

それは今まで見たことのない、たぶん本当の笑顔だと思った。
少し自嘲を含んだものだったけど、それがアンタの本当の笑顔なんだろうな。
笑った後、それを見せないためにか俯いたアンタは何か呟いたけど、
その声はひどく小さく聞き取れなかった。
聞き返そうかと思った時には、顔を上げいつものはりついた笑顔を浮かべていた。


そして、「さぁね」とだけ言った。


アンタの過去には何があったんだろうな。
自分にも他人にも興味なんて覚えたことはなかったけれど、アンタがアンタになった経過を知りたいと思ったよ。

馬鹿げてるけどな。
はじめて、興味を持ったんだよ。






04.04.13 微修正。

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