Decided to see nothing. 2
「教授、あの実験をやったんですか?」
朝から随分なニュースとなっていた。
小さな町が、家も人も飲み込んで突然灰と化したから。
「僕がやったんじゃないよ」
教授は楽しそうに笑いながら言う。
「僕がやったんじゃない、って、あの兵器作ったのは教授でしょ」
「まぁね。
でも、ボタンを押したのは僕じゃない。
装置を街の至るところに埋めたのは僕だけど、決定的なスイッチを押したのは僕じゃないよ」
しれっと、教授は続ける。
「教授、最低ですね」
「そうかな」
本当に解らないようで、教授は首を傾げた。
「まぁいいですよ。
あの兵器の威力は十分解りましたし」
「でしょ?これで今年も研究費いっぱい入るね」
子どもみたいに笑う教授。
「あーそうですね。
確実にたくさん入りますよ。
スイッチを押したのが教授じゃなければ、犠牲者が出たところで軍には関係ないですもんね。
で、教授は誰にそのスイッチを押させたんですか?」
「何?君、興味あるの?」
「そりゃーね、新型兵器を作ったはいいけれど、
適当な場所がないために試す機会が伸びに伸びてていつになるか解らない、
って状態でしたからね」
「そうだね、作ってから半年も経っちゃってたんだよね」
「そうですよ。
で、誰が不幸のスイッチを押したんですか?」
「君ね、不幸のスイッチって失礼だよ。
幸運のスイッチと言ってくれない」
「はぁ?
町ひとつ人間と共に消したんですよ。
犠牲者出てるんだから、押したヤツは罪の意識に苛まれて正常ではいられないでしょ」
「あぁ、そう言えばそうだね。
押した子、少しおかしくなったみたいだし。
僕たちにとっては、研究費を舞い込ませてくれる幸運のスイッチなのにね」
不思議だね、とでも言いたげに首を振る教授。
けれど、そんなことはどうでもいい。
教授の言葉に冷や水を浴びた気がした。
ドクドクと心臓が早鐘を鳴らす。
「教授…今、子どもって言いました?」
声は掠れていた。
「うん。言ったよ」
あっさりと認める教授。
背中に冷たい汗が、いく筋も流れる。
「子どもって、誰…ですか」
「ん?
ほら、君の隣に住んでるって言った子。
まだ子どもなのに一人暮らししてるんだってね。
偉いね」
偉い?
あぁ、偉いよ。
サスケはまだ12歳なのにどういった事情か知らないけれど、
数年前引っ越してきた時から一人暮らししてる。
一人暮らしは何かと寂しいだろうと声をかけて、よくふたりで過ごしてる。
たまにこの研究所にも連れて来て、教授とも話したりしてた。
――いや、今はそんなことじゃなくて。
「教授、サスケに押させたんですか」
訊ねる声は震えた。
けれど、答える声は明快。
「人聞き悪いね。
僕ちゃんと押しちゃダメって言ったよ。
でも、あの子が押したんだよ。
だから、僕が押させたんじゃないよ」
そんなことより、実験結果なんだけどね……」
頭上で楽しそうに教授が話し続ける。
けれど、自分の耳にはそれは届かなかった。
ただ、もう遅いと解っているのに、必死になって状況整理にに頭を駆け巡らす。
けれど、どんなに頭を働かせたところで、サスケがスイッチを押したことには変わりはない。
「今、アイツ何処にいるんですか…」
「ん、今?
医務室だよ。
僕、ちゃんと連れて帰ってきてあげたんだから、偉いよね」
「有難うございます」
何に対しての礼か言いながらも解らなかったけれど、医務室に向かって走り出した。
心臓が煩いくらいに音を立てていた。
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