駅から出ると迎えてくれたのは、小さな街だった。
仕事が一段落着いて、「誰も自分を知らない」そんな処を探していた自分には丁度よかった。



深夜の街は、伝統の明かりだけが、ほの暗く街を照らしている。


そして、その灯りの下に、ストリートチルドレンの子どもたちが、
暖をとるように身を寄せ合っている。
けれど、少し離れた電灯の下に独りで立っている少年がいた。
他の子どもたちは、俯いて座り込んでいるのに、その少年だけはただ空を見ていた。


ひらひらと舞う雪を、無感動に見ていた。
不安も絶望も、何も映らない瞳だった。








人殺しと少年








「ねぇ、君。
 俺と一緒に来る気ない?」

気がつけば声をかけていた。
少年はゆっくりと瞬きをして、振り返る。
そして、まだ幼さの残る少し高めの声で答えた。

「俺に、人殺しの片棒担げっての?
 悪いけど、他を当たってくれ」

「…どういう意味?」

俺は人殺しだなんて、一言も言ってないよ。
目で問うと、少年は小さく溜息をついて、再び視線を空へと向けた。

「臭い。
 血の臭いがするから」

臭い…ねぇ。
先日までやっていた仕事は、二日前には終わっている。
だから、血の臭いがするなんてことは、絶対にない。

「血の臭いなんて、しないでしょ?
 昨日も、その前もちゃんとお風呂に入ったし」

少年は視線を空に向けたまま、答えた。

「ということは、3日前に血を浴びるようなことをしたんだ」

その言葉に、小さく舌打ちをした。
だが、少年は気にせず続ける。

「そんなんじゃないよ。
 新しくついた匂いなんかじゃない。
 アンタから臭うのは、もぅずっと染みついている、そんな血の臭いだよ」

静かに言い放つ少年は、相変らず表情がない。

「そっか。
 俺自身に染みついてるのか。
 それなら、仕方ないね」

身に覚えも多いことだし。
そう付け加えた言葉に、少年は僅かに反応した。
視線が、ぶつかる。



「アンタは、何で人殺しを辞めないの?」

『人殺しをするの?』ではなく、
『人殺しを辞めないの?』そう言った少年に、興味がわいた。


だから、訊いた。


「どうして君は、
 『人殺しをするの?』ではなく、『辞めないの?』って訊くの?」


その言葉に、少年は肩をびくりと震わせた。
そして、自嘲気味に笑った。

「…そうだよな。
 普通はそう訊くだろうな」


ひとり、小さな声で君は呟いた。
その表情は、ひどく哀しそうで、俺はかける言葉なんて持っていなかった。








2003.02.26 『死体』での、ふたりの出会い話です。 って、ことでやっぱ『死体』もパラレルでしたね。 いいんだか、悪いんだか続きます。

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