← Back Side.S →愚者の信仰 (Side.K)
「お前にアイツが救えるのか?」 ヒゲ面クマが訊いてきた。 「救えないね」 僕はきっぱり断言した。 クマは、目を見開き止まった。 持っていた杯の中身が、小さく揺れる。 僕は、笑った。 「俺はアイツを救えない。 けど、アイツは俺を救ってくれる」 クマは苦虫を噛み潰した顔をした。 僕は、また笑った。 大人の僕が、あの小さな子どもに救いを求めてる。 自分以上に傷ついているあの子どもに、救いを求めてる。 そして、その子どもは僕を救ってくれる。 抱きしめてくれる。 自分から流れ出る血に見向きもせずに、僕を抱きしめ救ってくれる。 子どもは僕を救ってくれる。 新たに血を流しながらも救ってくれる。 僕は、救われる。 子どものおかげで救われる。 では、君を救うのは誰だと言うのだろう。 僕では決して有り得ない。 僕は君を望む。 君に温もりを望む。 けれど、君に恋人を望まない。 君は僕に、何を望む? 問うたところで何も変わらないけれど、気まぐれに寝物語にでも聞いてみようか? 僕は君に何も与える気がないけれど、それでも訊いてみようか? 君は、僕に何を望む?
2003.10.26〜29 2004.01.02