Cry for the moon. 7

カカシの傍は酷く落ち着いて、気がつけば離れることが難しくなっていた。 もう何日ここにいるのだろう。 学校にも行かず、家にも帰らず、ただ一日カカシの傍で過ごす。 一緒に眠って、 一緒にご飯を食べて、 また、一緒に眠りにつく。 その繰り返し。 カカシは名前と歳を訊いただけで、他は何も言わないし訊かない。 学校に行け、とも 家に帰ったほうがいい、とも、 まだ、ここにいてもいい、とも。 最初はそれが有り難いと思っていたけれど、今は不安になる。 何故、何も言わないのか。 訊いてはくれないのか。 そんなことを思いながら、カカシを見つめた。 カカシは濡れた髪をそのままに、パソコンに向かって何かをしている。 向けられた背中に、手を伸ばす。 何がしたいのか解らぬまま、手を伸ばす。 あと少しで触れるというところで、カカシが振り返った。 「何?」 問われても、答えなどなくて困ってしまう。 「サスケ?」 「風邪…ひく」 思いついた言葉を吐き出しながら、濡れた髪を引っ張る。 「あー、拭いてなかったっけ…。  サスケ、悪いけどタオル持って来てくれる?」 向けられる笑顔は、優しい。 けれど、それは本当なのだろうか。 この男は、嘘を吐く。 この男は、演技をする。 カカシ、その笑顔の意味は? 「サスケ?」 心配そうな顔が目の前にある。 この顔も嘘なのだろうか。 それとも、演技なのだろうか。 「サスケ、どうかした?」 ――今、自分は何を思った? 「…タオル…取ってくる」 タオルを取りに洗面所に行けば、鏡に蒼白な顔をした自分が映っている。 怖い、と思った。 いつの間にか、カカシに依存している。 ほんの数日しか過ごしていないのに。 そんなに話をしたわけでもないのに。 カカシの温かさに、感覚が麻痺を起こしている。 出会った当初は、違ったのに。 あの時のままなら、こんな関係にはなり得なかったのに。 「サスケ、タオル見つからないの?」 鏡にカカシの顔が映る。 その目を、見つめる。 「サスケ?」 何で、何も言わない。 何で、何も訊かない。 何で、今自分はここにいる。 何で、カカシは追い出さない。 何で―― 「…何で、アンタ優しいんだ?」
2004.05.16〜06.13
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