Cry for the moon. 8

「…何で、アンタ優しいんだ?」 声は、小さく震えた。 「サスケ?」 鏡越しに映るカカシは、不思議そうな顔をしている。 「アンタ、今も嘘吐いてるのか?  演技してるのか?」 「…何?」 「…どう考えてもおかしいだろ。  何で、アンタ何も言わないし、訊かないんだ。  …それに、何で追い出さないんだ」 カカシは、嘲った。 その顔に、何故か哀しくなる。 「昔話をしよう」 「話を変えるな」 「変えてないよ。  たぶん、そこにお前が知りたい答えがあると思うよ。  聞くの?聞かないの?」 鏡越しに見つめてくるその目を、どう言えばいのだろう。 挑発しているような、疲れているような、哀しいような…そんな感情が混ざり合った目。 溜息ひとつ吐いて、向き合う。 「聞くよ」 「じゃあ、おいで…」 差し伸ばされた手をとって、リビングへと戻った。 「昔々、ある男がいました。  それはもう周りから妬まれるほどに、何でも持っている男が」 ふざけた言葉をカカシは吐き出す。 けれど、その声にふざけた色合いはないから口を挟めない。 「けれど、男は欠陥品でした」 「欠陥品?」 「そう。欠陥品。  感情があまりなかったんだ。  まったくないワケじゃない。ただ、どれもがあやふやでしかない」 「それで?」 「そのまま男は何不自由なく大人になったけれど、気がついたら周りには何もありませんでした。  いや、富も名声も女も人が欲するであろうすべてのモノは持っていたけれど、  ただひとつだけ男はどうしても持ち得ないものがあっりました」 「何?」 「愛情」 「…それないと不便?」
06.13〜
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