Cry for the moon. 5

目を開けたら薄暗闇の中で、状況がよく解らなかった。 動こうにも、何かに拘束されているようで動けない。 無理矢理動いて腕を突っ張ったところで、状況が解る。 拘束しているのは男の腕でだった。 ああ、思い出した。 男に慰められるように抱き込まれ眠ったのだった。 視線を上げれば、男の顔がある。 改めてよく見ると、整った顔だった。 少し長めの銀髪が薄ぐら闇の中、淡く光って綺麗。 手を伸ばし、触れた。 男は何の反応もしない。 今度は、その髪を引っ張った。 すると、数回瞬きをして、漸く男が目覚める。 「おはよう」 寝起きの声は少し掠れていたけれど、低く心地のいい声だった。 「おはよう?  まだ、夜中だろ?」 「いいや。朝だよ。」 「まだ、暗いぞ」 「あぁ、遮光カーテンだからね。  今は朝だよ」 指が指されるままに振り返ってみると、時計の針は8時過ぎをさしていた。 「…嘘だろ」 「いや、本当」 ヤバイ。学校に行かなきゃ。 起きようと身体に力を入れたのに、起き上がることはできなかった。 ガッチリと男の手が拘束を続けている。 「俺、学校行かなきゃヤバイんだけど」 「どうせ遅刻でしょ」 「…そうだけど、でも」 「大丈夫だよ、一日くらい行かなくても」 笑って男が言う。 「普通、大人なら、遅刻してでも行け、って言うんじゃないの?」 「俺、大人じゃないから」 「どう見ても、オッサンだよ」 「…お前、意外に酷いね」 少し傷ついた顔をされた。 それが何だか可笑しくって、取り繕うように訊いた。 「アンタ仕事は?」 「んー、まだやる気ないから当分しない。  一生遊んで暮らせるだけの財は、もうあるしね」 「…いい身分だな」 「でしょ」 男は楽しそうに笑った。 そのまま他愛もない話を、抱き込まれたまま昼まで話をしていた。 いい加減離して欲しいと思いながらも、 その腕は優しくて温かくて、本当は離さないで欲しかった。 何も訊かない男の優しさが温かかった。
04.05.13
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