殴って蹴って血反吐まで吐かせても、サスケは抵抗をしない。
腫れあがった瞼の下から、虚ろな目で俺を映し出す。






Don't take my mind , please.

いつから、こんな目で見るようになったのだろう。 初めて暴力をふるった時のことを思い出す。 あの時は、怯えていた。 何で?って顔をしていて――… 「何で?って顔してるね。  理由を教えてあげようか?正当防衛だよ」 そう告げても、サスケは解らないというように首を振った。 だから、言葉を続ける。 「お前に俺の未来殺されると思ったから。  エリートとしての地位も、築き上げた信頼も、  死んでいった仲間達との約束も、お前に溺れたら全部ダメになる。  ――殺される。  だから俺は自分を守るために、お前を傷つける」 解った?と訊いてやれば、サスケ震える声で、過剰防衛だ、と言った。 過剰防衛ねぇ…。 「過剰防衛だって?そんなことないよ。  これは、正当防衛だよ」 言いながら、おかしくなる。 何が正当防衛なのだろう。 今までの俺のすべてを、サスケひとりのために崩されそうになっているからといっても、 そんなことのために、サスケに暴力をふるっても意味はない。 サスケを選んだのは、俺自身なのだから。 ――こんなの子どもじみた言い訳でしかない。 けれど、これが紛れもない事実。 そう。 それは本当に、事実だったんだけどね…。 視線を下げれば、まだ俺を見ているサスケ。 血と痣だらけの身体。 今にも意識を手放しそうなほど酷い怪我なのに、俺を狭い視界から映し出している。 怯えた目をしているワケではない。 恨みがましい目をしているワケでもない。 ただ、その目に俺を映す。 虚ろな目をしてでも、俺を見る。 その目を見て、俺は何を感じるのか―― ダンッ。 鈍い音を立てながら、サスケを蹴り上げる。 サスケは小さく呻き、腹を抱える。 けれどそれに構うことなく、殴った。 殴って殴って、殴り続ける。 そしてガクリと垂れ下がった頭を見て、漸く安心する。 自分の乱れた呼吸の音が、やけに耳についた。 再び見下ろしたサスケは、もう俺を見ていない。 微動だにせず、倒れている。 完全に意識を失っていることを確認して、サスケの前にしゃがみ込んだ。 間近で見る顔は血に汚れ、酷く腫れあがっている。 その顔に触れれば、熱を孕んでいて熱かった。 こんな時にしか、触れられない。 意識を失った後でしか、触れられない。 過剰防衛だ、と言ったサスケの言葉を思い出す。 多少の余裕をもって『正当防衛』と言えたのは、今となっては昔のこと。 今は、そんな余裕などない。 過剰防衛なんかじゃない。 正真正銘、これは正当防衛だよ。 だって殴れば殴るほど、俺はお前に捕われる気分になるんだから。 どっちがよかったんだろうな。 まだ子どもじみていると思いながらもサスケを殴っていた頃と、 自分を守るためにサスケを殴りながらも、その度に捕らわれる気分になる今と…。 なぁ、サスケ。 どっちがよかったんだろうな…。 腫れあがった頬を撫ぜながら独り言ち、笑った。 どうしてそこで、暴力が加わる前の選択肢が思い浮かばないのだろう。 過剰防衛だの正当防衛など、何を言っているのだろう。 どう進めばいいか解らない。 殴って束の間の安堵を覚えても、すぐに自己嫌悪に陥りまたサスケを殴る。 終わりのない苦痛と痛みの連鎖。 この連鎖が断ち切られる日は、来るのだろうか。 ――笑いあい触れ合えた日々は、思い出せないほどに遥か遠い。
04.07.17 『Don't take my mind , please 』 このお話より少し後のお話→『The chain of pain.』 ネタ提供:庵さま。内容↓   「俺の暴力行為。    何で?って顔してるね。    理由を教えてあげようか?正当防衛だよ。    お前に俺の未来殺されると思ったから。    エリートとしての地位も、築き上げた信頼も、    死んでいった仲間達との約束も、お前に溺れたら全部ダメになる、    殺される。    だから俺は自分を守るために、お前を傷つけた。    過剰防衛だって?そんなことないよ。      だって殴れば殴るほど、僕は君に捕われる気分になるんだから。」 庵さま、ネタ提供&素敵タイトルを有難うございました。 全文引用のつもりが、所々切っちゃうカタチになって申し訳ないのですが、 こんなモノでも宜しければ、庵さまに捧げさせていただきます。
Back