馬鹿じゃねぇの。
そんな顔するくらいなら、さっさと殺ればいいのに…。






The chain of pain.

殴られても蹴られても、血反吐吐いても抵抗はしなかった。 ただ殴るカカシを見ていた。 瞼が腫れあがり、狭くなった視界でもカカシを見続けた。 怖いから抵抗しないワケじゃない。 抵抗したところで敵わないからでもない。 無駄だから、抵抗しないだけだ。 繰り返し繰り返しされる暴力。 抵抗したのは、最初だけ。 気づいてしまったから。 骨を折られても、綺麗に折られるから完治も早い。 殴られても、急所は僅かに避けられる。 致命傷は与えられない。 そして何より、苦しんだ顔をして暴力をふるう。 痛いのは俺。 でも、苦しいのはカカシ。 馬鹿だよな…。 どっちも馬鹿だ。 いい加減、 このどうしようもない連鎖を断ち切ればいいのに、それができないでいる。 馬鹿としかいいようがない。 思わず笑えば、カカシの殴る手が止まった。 ただ目に映していたカカシの姿を、 ちゃんと捉えようと狭い視界の中必死に目を開ければ、カカシはじっと俺を見つめている。 「お前が死ねば、俺は苦しまないでいいのに」 そして、今更な言葉を口にする。 今更だな、と笑ってやりたかったけれど、声を出すことすらしんどくて代わりに笑ってやった。 伸ばされた手が、首に触れる。 冷たい手。 ずっと昔に手を繋いだ時は温かかったのに…。 首に手を回される。 目を、閉じた。 殴られる間に意識的に目を閉じるのは、最初の時以来だった。 思い浮かぶのは、楽しかった時のこと。 笑いあえた時のこと。 最後に見るのは苦しむ今のカカシなんかではなく、笑っていた昔のカカシがいい。 だから、目を閉じた。 それなのに、首に回された手はいっこうに力が加えられる気配はない。 目を開ければ、苦しそうな顔のカカシがいて…。 「早……殺れ…よ。……楽に…な…れば…いい」 しんどかったけれど、息も切れ切れに伝えた。 それは意地でもなんでもなく本心だった。 楽になればいい。 カカシが苦しまなくてすむなら、俺も苦しまなくてすむ。 どうしようもない連鎖が、やっと断ち切られる。 連鎖を断ち切る方法は、これしかない。 カカシの手に力が込められる。 目を閉じる。 徐々に徐々に、力が加えられる。 息ができなくて苦しいのに、どこかで安堵する自分がいる。 あと少しで、連鎖が断ち切られる。 けれど、カカシは最後の最後で手に込めた力を抜いた。 いきなり入ってきた酸素に激しく咳き込む身体を抱き込まれる。 カカシは、何も言わなかった。 ただ抱きしめる腕に、力を込めた。 断ち切られなかった連鎖。 なす術がなく目を閉じれば、涙が頬を伝った。 ――それは、どちらの涙だったのか。
04.07.17 『The chain of pain.』=苦しみの連鎖。 このお話より少し前設定のお話→Don't take my mind , please. ネタ提供:ちえさま。内容↓   カカシに 「お前が死ねば俺は 苦しまないでいいのに」って 言ってもらいたいです。 ちえさま、ネタ提供有難うございました。 暴力カカシとなってしまいましたが、宜しければちえさまに捧げます。
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