← Back Next →Mittäter
いつもと同じだった。 Dランクの任務が終わって、ナルトがイルカ先生とラーメンを食べに行くと騒ぎ、 サクラがママと買い物に行くと笑って帰り、俺は独り家に帰る。 そぅ、そこまでは同じだった。 帰りにカカシと会うまでは、いつもと変わらなかったんだ。 「サスケ」 呼びかけ、笑うカカシもいつものように張り付いた笑みを浮かべている。 「…なんだよ」 「ちょっとね…」 そう言って、いきなり腕を強くひっぱられ、脇道に連れ込まれた。 その後は、よく覚えていない。 ただ、ワケも解らず犯された。 それは、もぅ本当に驚くとか、恐怖だとか、痛みだとか、 そんなのも全部感じられなくくらいに、何もかもが解らなかった。 思考が、一切遮断された。 自分を犯していく男が何か言っててもそれは聞こえず、 触られた場所も何も感じないほどに、全ての感覚が遮断された。 犯されていることに、恐怖や怒りも一切感じなかった。 感覚全てが、遮断された。 カカシはコトが終わると、何事もなかったように衣服を見に付け、 早く帰れよ、とだけ言って去っていった。 バカか? お前のせいで、俺は動けねぇんだよ。 今更になって、鈍く違和感を感じる。 身体が、ダルイ。 下半身が、気持ち悪い。 一体、アイツは何をしたかったのだろうか? 疑問に思ったものの、そんなことを考えるより早く家に帰りたくて、 力の入らない足に意識を集中して家路を急ぐ。 翌日、任務はなかったが演習があって、カカシはいつものように遅れてきた。 「今日は、人生という道に迷ってな…」などといったくだらないいいワケをして、 ナルトたちに「はい、ウソッ!! ていうか、それ前にも言った!!」と突っ込まれている。 カカシは悪びれた様子も見せず、ただ笑っている。 昨日見た、アイツは何だったのだろう? 今、笑っているアイツと同じ人物なのだろうか。 あまりにじっと見ていたせいか、カカシがこちらを見る。 その目は、笑っていない。 何故だか、静かな怒りが見えた。 なんで、お前いるの?、とでも言いた気な目。 そんな目を見ても、別に何も思わなかった。 昨日、あんなことをされたというのに、 カカシを見ても、昨日と同様に、怒りも恐怖も何も感じなかった。 「先生、どうしたの?」 サクラが少し怯えて訊いている。 「ん?どうした、サクラ?」 優しく笑って、手を頭の上に置く。 サクラは、ほっと安心したように笑った。 乗せられた手を少し恥ずかしげに、振り払う。 ナルトは、「先生、俺にもさわってーっ!」と、 ワケの解らないことを言いながら、頭をカカシにぶつけている。 いつもと変わらない、風景。 俺だけが、部外者。 「サスケくんっ!」 呼ばれて振り向いた途端に、右腕に痛みが走る。 飛んできたクナイに勢いよく、肉を削がれた。 「キャー、サスケくん!!」 その声に、現実に引き戻される。 今は、サバイバル演習だったっけ…。 何やってんだ、俺は。 ダラダラと流れる血を見て、げんなりする。 痛みは、もぅ感じなくなっていた。 ただ、血だらけの腕を見ても、利き手だから支障がでそうだ、ということしか浮かばない。 ぐいっと、腕を引っ張られる。 カカシが目の前に立っていた。 「…離せよ」 振りほどこうと手に力をいれるが、びくともしない。 チィ! 「はい、集合」 気の抜けた声が、頭上で響く。 サクラとナルトが走ってくる。 サクラは怯えた目で俺の右腕を見ている。 ナルトも目を見開いて、俺の右腕を見ている。 二人の緊迫した雰囲気をブチ壊す気の抜けた声が、またも頭上から響く。 「今日は解散。 見ての通り、サスケの負傷のためだ。 これから、俺とサスケは医療班の処に行くけど、お前らここで解散な」 サクラもナルトも、深刻な顔して頷いている。 何、お前ら納得してんだよ。 「は? 何言ってんだよ。 ただ、血が大袈裟に流れてるだけだろ。 痛みは全くない。 こんなのすぐに治る」 その言葉に、二人は怯えた目をする。 何だってんだ、一体。 実質、痛みはもぅない。 ただ、ちょっと血が流れすぎな気がしないでもないが、別に痛くない。 怪我した本人が一番、怪我の程度が解るっていうのに、こいつら何大袈裟に心配してやがんだ。 「サスケ、お前ね。 痛みはないといっても、コレ結構深いよ。 骨の付近までグッサリいっちゃってるよ」 「何言って…」 「だから、今すぐ医療班の処に行くんだよ」 握られた腕に、力が込められる。 でも、顔には心配してます、って表情貼り付けてるから、 ナルトたちは気づかない。 「そうだよ、サスケ。 早く医者に見てもらえって…」 「サスケくん。 早く行かなきゃ…」 二人のその顔にズキリと胸が痛んだ瞬間に、隙をついたカカシに抱き上げられた。 「て、てめぇ、何すんだ!」 「だって、お前言うコト訊いてくれないんだもん」 そう言うや否や、カカシは走り出した。 視界が揺れる。 静かに揺れないように走ることなんて、 コイツには何でもないことだろうに、そんなことはしないらしい。 ガンガンと揺れる視界と一緒に、血だらけの腕もガンガンと揺れる。 飛び散っていく血を見ながら、俺は意識を失った。 血が、流れすぎた。