雲の隙間から漏れ出た一条の光は、どこまでも非現実的で、
愚かにもその先に失ってしまったものがある気がして、何もかも捨てて、走り出した。


光に向かって、走った。


静止する声も、手も、振り切って走った。


光に少しでも近づくことと、
光に辿りつかないことを同時に願って、走った。





天使の梯子
その日のサスケはおかしかった。 集中力がまったくなく、抜け殻みたいだった。 今日の任務は、裏山で薬草摘みという簡単なものだ。 けれど、昨日まで降り続けた雨のせいで地面はぬかるんでいて、 崖の近くにしか群生しない薬草を取るという行為に、心配はあった。 それほどまでに、サスケは不安定だった。 サスケは、黙々と薬草を摘んでいる。 一言も何も発せず、自分の手元と薬草だけを見つめて。 時折、手を止め遠くを暫く見て、哀しそうに眉をしかめ、ぎゅっと目を瞑る。 それから、ゆっくりと呼吸を吐き出し、何事もなかったようにまた薬草を摘む。 今朝からずっと、この繰り返し。 理由も解らず、こちらまで溜息が出てしまう。 「あっ、天使の梯子だ!」 サクラの嬉しそうな声が響き渡る。 「天使の梯子?  サクラちゃん、それって何??」 「バカね。  アンタそんなことも知らないの?  天使の梯子ってのはね、アレよ」 そう言って、空を指す。 見上げた空は、灰色の雲で覆われている。 けれど、一筋だけ空から光が漏れ、光の道が天から地上へと出来ていた。 「天使の梯子って、あの光の道のこと?」 「そうよ!  あの梯子は、天国と繋がっているの。  あそこから、天国に行けるのよ。  あたしもあの梯子をのぼっていけば、死んだおばぁちゃんに会えるかしら?  会いたいな、おばぁちゃんに」 「そっかー。  アレにのぼれば、死んだ人に会えるんだ」 「そうよ。  迷信だけど、なんか夢があって素敵よね」 サクラとナルトは、そんな微笑ましい会話をしていた。 けれど、そんな和やかな雰囲気も、ドサリという音とともに現実へと引き戻される。 振り返れば、サスケが空を真剣に見つめ、立っていた。 たくさんの薬草が入った籠を足元に落とし。 「…サスケくん?」 怯えたように、サクラが声をかける。 「 」 サスケは何事か小さく呟いて、走り出した。 天使の梯子にむかって。 死んだ人に会えるという、天使の梯子に向かって、走り出した。 「サスケ、待て!」 我に返り、サスケを止めようと叫ぶ。 けれど、サスケは止まらない。 空を見上げ、一心に走る。 クソっ! 「ナルトたちは、ここで待ってろ。  日が沈んでも帰ってこなかったら、そのまま家に帰っていいから!」 「先生!」 「心配しなくていいから。  日が沈んだら、帰るんだぞ。これは、命令だ!」 朝から様子がおかしいと解っていたのに、どうして目を離したのだろう。 サクラの話を聞いて、どうしてサスケを心配しなかったのだろう。 渦巻く不安を消し去ろうと、サスケを追う。
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