「土方」

隣に座る美女たちに断りもなく立ち上がり、金時は嬉しそうに笑って駆け寄った。





終宵





「早かったな。
 俺も一緒に上がりてぇけど、あと1時間だけ待ってくんねぇ?」

申し訳なさそうに言いながらも、嬉しそうな顔は隠せない。

あんな色のピアスを寄越したのに?
なぁ、どんな気持ちでアレを選んだんだよ。

耳に触れ、両耳からピアスを外す。
不思議そうな顔で見つめてくる金時に、それをつき返す。


「え、ちょっ、土方?」

慌てながらも落ちる前にそれを受け取る金時。

「何でそれ選んだんだ?」

「だって、キレイだろ?」

低い声で問えば、戸惑ったように答えられる。





「そんな色が?」

「そんなって、お前――…」

「ピジョンブラッドが?」

続く言葉を何処から現れたのか、事の発端である高杉が続けた。

「高杉、テメェちょっとどっか行けよ」

「はぁ?何でだよ。
 俺のやったダイヤじゃなく、何でお前がやったもん付けてるのか聞く権利があるだろ」

その言葉に金時が反論する前に、俺が口を出す。

「ねぇよ。
 それにコイツにも返して、今は何も付けてねぇだろうが」

「ふーん。
 お前怒ってる時のが、キレイだよな」

脈絡のない言葉を、
にやにや笑いながら吐き出して、高杉は消えた。




「なぁ、俺なんかした?」

溜息を吐き出し、困ったように金時が訊いてくる。

何も、されてない。
ただ俺が勝手に、傷ついているだけだ。

「何でそんな色選んだんだ?」

「だって、お前に似合ってるだろ?」

恐る恐ると答えられたそれは、嘘偽りもない様子。


「…これ、ピジョンブラッドっつーんだろ?」

「あぁ」

「血の色、だよな?」

やっと意味が解ったのか、さっと金時の顔色が変る。

「違っ」

「違わねぇ。
 お前は俺に、血の色が似合う、って言ってるようなもんだろ?
 そんなこと言われて喜ぶと思うか?
 お前が俺のことをどう思ってるのか、よく解ったよ。
 荷物は今日中には持って帰るから、じゃあな」

警察と裏社会に片足突っ込んだ男。
元より、長続きするはずはなかったんだ。

「ちょ、待てよ」

止めるように、肩にかけられた手を払いのける。

「まだ、仕事あんだろうが。
 キッチリ働けよ。
 仕事しないヤツは嫌いだって言ったよな」

そんな言葉を続けたところで意味はないと知っていても、
それでも言った言葉に、金時はビクっと動きを止めた。




血が似合うと思ったようなヤツが言った言葉に、
何、反応してんだよ。

バカじゃねぇの。
漏れる嘲笑めいた笑いは、自分に対してか。


もう会うことねぇな、と笑えば、
呆然とした顔で見つめる金時がいた。






06.06.18〜07.10 Back   Next →