目が覚めて顔を洗うついでに鏡を見たら、
両耳には赤い石のついたピアスがついていた。

なんとなく同じダイヤのピアスか、
以前貰ったのと同じシルバーかと思ってたから少しだけ意外だった。





終宵






「なー、気に入ってくれた?」

ボサボサの頭をかきながら、金時が笑う。

「あぁ。
 でも、ピアスはしない」

「今日だけでもダメ?
 明日からは、しなくていいし。
 放っておいたら、穴も塞がるし」

なぁ、ダメ?、と言われれば返す言葉もなく。

「本当に今日だけだからな」

気づけば、そんな返事をしていた。




「何でだよ、お前、休みっつったじゃん」

ガキか、お前は。
駄々捏ねるんじゃねぇよ。

「るせーな、仕事なんだから仕方ねぇだろうが」

「だから、休みだったんだろ?
 行かなくていいって」

何を言っても無駄。
それならもう、無視しかない。

上着を引っ掛けて、抗議を聞かないふりで玄関へ。


「俺もついて行く」

背後で不穏な空気と共に伝わってくる殺気。

「何、言ってくれちゃってんの?
 お前は、仕事だろうが」

「だって、お前は俺を置いてくんだろ?
 だったら、俺が一緒に行くしかねぇだろ?」

だから、何勝手なこと言ってるんだよ、テメェはよっ。





「俺、まだ怒ってんですけど?」

その一言で、一気に温度が下がった気がした。

「…でも、仕事なんだよ」

休みをくれたのは、近藤さん。
それなのに取り消してまで呼び出されるってことは、よっぽどのことだろ?

だったら、行くしかねぇじゃねぇか。
例え、呼び出したのが総悟であったとしても。

「…休みっつったよな?」

「それは、悪かったと思ってる」

明日は仕事見送ってやる、と言ったのをおぼろげながらも覚えてる。


「…本当に悪いと思ってんのかよ?」

疑わしそうな目で見るんじゃねぇ。

「思ってるつってるだろ?」

「じゃあ、俺の言うこと聞いてくれる?」

「あぁ」

口にした瞬間、酷い後悔。
何てことを言っちまったんだ、俺はっ。

あぁ、目の前の男の顔が見たくねぇ。

さっきの怒りは何処に消えた?
嬉しそうな顔してるんじゃねぇよ。





「警察のお前が、嘘なんて吐かねぇよな?」

ニッコリ笑って脅迫ですか、このヤロー。

「…二言はねぇ」

悔しさで、泣けてくる。

「じゃ、今日、店寄ってくんね?」

「は?」

意外な言葉に、思わず耳を疑う。


「どうせ呼び出しっても、近藤が早く帰らせてくれると思うわけよ。
 まー、違ったら、俺が乗り込んで連れ帰るけどな。
 だから、お前、帰りに俺の店に寄ること」

嘘は吐かねぇんだもんなー、と笑われれば異論のしようがない。

「解ったよ。
 行けばいいんだろうが、行けば」

それだけ吐き捨てて、今度こそ外へと通じるドアを開けた。
後ろでクスクス笑う声が、酷くムカついた。






06.06.8 Back   Next →