耳に感じる違和感。
あぁ、ピアス開けられたんだっけ。





終宵





…って、違ぇよ、コレ。

痛い。
痛いからっ。



「…何してんだよ?」

目を開ければ、笑う金時。
思わず、いろいろ思い出して背筋に冷や汗が。

「付け替え?」

ニッコリと笑って意味不明な言葉をくれた。

「何を?」

「だから、ピアス」

「何で?」

「何で?
 お前、それ本気で言ってる?」

笑顔に、怒気が含まれる。
思わず反射的に謝った。

悪くないのに。
俺は、悪くないのに…たぶん。




「…コレ、何だ?」

話題を変えようと耳に触れて、戸惑う。

「ピアス」

「っんなこと解ってんだよ。
 コレ、前にくれたのと違うじゃねぇか」

叫べば、金時が驚く。
声がデカかったとかじゃなくて、心底不思議そうな顔で。

けれど、それも一瞬。
次の瞬間には、抱きしめられる。


「うっわ、嬉しいんだけど。
 土方、見なくっても前のと違うって解るんだ」

「っバカ、ちょっ…テメェ離せよ」

嫌ー、と我侭な子どものように金時が笑い、抱きしめる力を強める。

そんなに喜ぶことなんだろうか?
いくら俺がそんなことに疎いと言え、
触れれば、前に貰ったのとデザインが一緒か違うかくらい解るのに。


「解らねぇって顔してんな」

クスクスと楽しそうに、金時が言う。
その顔が癪だが、本当のことだから頷いた。

「前に俺があげた時、お前一瞥しかしなかった。
 それなのにデザイン覚えてるってことは、
 あの後にちゃんと見てくれたってことだろ?
 だから、嬉しいんだよ」

…思いっきり、恥ずかしいことを言われた気がした。





「っそうかよ。
 にしても、お前何処行ってたんだよ?」

「何?心配してくれた?」

にやりと笑う金時を見て、ますます墓穴を掘ったと自覚した。

「違ぇよ」

「そう?
 まー、そういうことにしといてやるよ。
 あのな、それ買いに行ってた」

ちょっと考えりゃ、解ることを訊いてしまった。

触れられた耳たぶは、僅かに痛みを伝えた。
穴を開けられたばかりのそこは、傷と変わらない。

眉間に皺が寄るのを見て、心配そうに金時が問う。


「痛い?」

「いや、痛くねぇよ。
 つーか、何で?
 前にくれたので十分じゃねぇか」

高杉がくれたモノをしてる俺が嫌なら、
自分が前にくれたモノをしてくれるだけでいいのに。

わざわざ、買いに行ってくれなくても。
何処にそれがしまわれているか解っているのに、何でだ?




「だって、お前嫌っつったろ?
 でも高杉のはつけたってことは、俺のよりそっちを選んだってことだろ?」

「違う」

思わず、叫んだ。

そうじゃない。
別に、お前に貰ったのが嫌だったワケじゃねぇ。

うまく言えねぇけど、違う。

「…解ってるって」

ふっと柔らかく金時が笑う。

「過程はどうあれ、ってヤツだよ。
 まー、俺の我侭だ。
 だから、お前は気にすんなって。
 もう一度プレゼントして、俺のつけて貰いたかったんだよ」

お前に選ばせるんじゃなくて、勝手にもうつけちまったけどな、
と金時が苦笑する。

それが、なんか胸に来た。



「なぁ。
 俺、見えねぇんだけど」

照れだとか恥ずかしさだとか、
そんなのを押さえ込むのを必死で、ぶっきらぼうに言い放った。

「あぁ、見なくていいぜ」

そんなこと?、とでも言うように、金時が笑う。

「何で?」

「まー、明日のお楽しみっつーことで。
 それより、寝ろ。クマが酷い」

今まで笑ってたのが嘘みたいに、金時の表情が翳った。

それで、心配させていたことを実感した。

2週間も家に帰らなかった。
それ以前に、1ヶ月も顔を合わすことが禄になかった。

「…悪ィ」

「いいから、ほらベッド行けって」

促されるように立ち上がって、
僅かな距離をバカみたいに手を繋いで歩いた。



久しぶりの熟睡は、
仕事終了の目処が立ったワケでも、
自分のベッドだからと言うワケでもなく、
隣で一緒に眠る金髪の男だと本人が知ったら、どんな顔をするだろうか。

目が覚めて、ぼんやりとそんなことを思った。






06.05.27 Back   Next →