時刻は、午前2時。
疲れているはずなのに、眠れない。

ソファに寝そべって、下らない映画をぼんやりと眺める。





終宵





「ただいまー…と、土方?」

バタバタと音を立て近づいてくる足音。
バタンと極めつけのようにデカイ音を立てて入ってきたのは、二週間ぶりに会う同居人。

「仕事、ケリついたのかよ?
 言ってくれたら、もっと早く帰ったのに」

そう言うが、同居人の午前2時の帰宅と言うのは早いほう。

「早いほうじゃねェか」

「んー、それがさー。
 高杉のヤツが客とトラぶって早めに店じまいしたんだよ。
 つーか、アイツひとりで騒ぎ起したくせにさっさと帰るんだぜ。
 ムカつくったらねぇよな」

抱きしめられるのを、面倒だから放っておく。

そうか、だから高杉はあんな時間にいやがったのか。
おかげでこっちは、いらぬ痛い思いと疲れをもらってしまった。

しかしそのせいで、
後始末が残っている仕事を気に揉む余裕もなく疲れたから、
明日の休みはゆっくり休むことにしよう。

どうせ同居人も夕方からは仕事だろうし、昼は大人しいはず。

よし、今日はさっさと寝てやる。




「…なぁ、コレ何?」

意識が遠のきかけている中、低い声が耳に響く。

「…あぁ?」

眠い目を無理やり開ければ、笑う金時。
怒気が見える笑み。

…何でだ?

「コレ、何って聞いてんだけど?」

ぎゅっと耳を引っ張られる。
あぁ、ピアスな。

「何ってピアスだろ。
 見りゃわ…」

解んじゃねぇか、と続くはずの言葉は、深まる笑みに黙殺される。

だから、何でだよ。



「何で開けたの?」

「…成り行き上」

「どんな?
 仕事上がったあと、何処か行ったっつーの?
 2週間ぶりに俺が待つ家に直帰するより、それって大事だったってワケ?
 ていうか、お前の意思じゃねよな?
 だって、俺がプレゼントしたのしてくれねぇままだもんな」

止めを刺すように、極上の笑み。
眠気はぶっ飛び、背には冷たい汗が伝う。

あー、ヤベ。
そう言えば、こいつから貰ったピアスつけてねぇ。
そんなチャラチャラしたもん、つけられるワケねぇだろ、
と言って押し返そうとして押し返しきれなかったのが引き出しの中に眠ってる。

「あー…悪ぃ」

でも、アレは成り行き上、仕方なかったんだ。

疲れてたから脳は働かねぇし、
高杉は流石に客商売とあって丸め込むのうまいし、
捨てるって言うんだから、本当に仕方なかったんだよ。

そう言いたいのに、うまく口が動かない。
その間、極上の笑みは更なる深みへと向かい、同時に俺は恐怖が増してくる。


「俺、コレと同じデザイン見た時あるんだけど?」

そうだろうよ。
アイツ、お揃いだとぬかしてやがったし。

あぁ、何であの時、死ぬ気で抵抗しなかったのか。
後悔先に立たずとは、このことで。

「押し付けられたんだよ」

「だから、どうして?」

誰に、とは訊かれなかった。
それは、相手が誰だか知ってるワケで。

仕方なく、成り行きを離す。

「…ふぅん」

怒り狂う…なんてことはないだろうが、
拗ねる、いじけるくらいはするだろうと思ってたのに、これは予想外。
ただ考えるように、右端虚空を見つめる。

「…何だ?」

「んー、ちょっと待ってろ」

そう言って、脱いだ上着を掴んで消えた。





あまりにあっけなくて、拍子抜けした。
極上の笑みでもたらす、恐怖は何処に消えたんだ。

緊張が一気に解け、眠気が再来。
あぁ、禄に寝てねぇんだっけ。

もう、寝よう。
何も考えず。

とりあえず、起きたら考えればいい。







05.09.25 Back   Next →