母親が死んだ。
5歳の時だった。







Family Play.

黒い服に身を包んだ見たこともない大人たちが、 僕のこれからについてを押し付けあう。 そのくせ、 少ないとは言えない遺産に目が眩み、話は難航するばかり。 どうせこんな人間達に引き取られたところで、 碌な人生など待ち受けていないことは解りきっている。 いっそ、施設にでも預けてくれればいいのに、 と思っていれば、見知らぬ男がやたらと響く声で言った。 「俺が引き取るから」 突然の言葉に、その場に居た誰もが固まり、 その一瞬後には、誰だとか、何を言ってるとか、 そんなことを口やかましく言い出す。 見たことのない男は、嘲笑を浮かべ言った。 「父親なんだよ、引き取る権利はあるさ」 父親、と言うには20代前後にしか見えぬ男。 けれど、歳など関係ない。 それどころか、ある意味 納得さえする。 母親もまだ10代だった。 「なぁ、来いよ?」 笑いかけてくる男の顔にはもう嘲笑はなく、僅かながらも懇願に似たモノを感じた。 無駄な正義感や単なる思い付きと言ったモノは感じられず、 会ったこともない遺産目当ての親戚と言う名の他人どもの家に行くくらいなら、 嫌になればいつでも施設に行くことを許しそうな男の元に行った方がマシだと思う程度には興味を持った。 だから、行くよ、と答えた。 それが1年前の出来事。 そして未だに、僕は男の元にいる。
Back   Next