ただ、願った。
気づくな、とただ願った。





Oath.





分厚い扉越しに聴こえる音。
扉を叩く音、名前を呼ぶ声。

相手が、誰かなんか解っている。
だからこそ、気づくな、と願った。





息を押し殺して、音が止むのを待っている。

気にしなければいい。
そう思うのに、扉の前で固唾を飲んで待っている。

占める思いは、
一度も感じたことがない恐怖というモノに似ているのかもしれない。











どれくらい経っただろうか。

1時間は、経ったのは確かだ。
それなのに、男は未だに音を立て続けている。

それが突然に止んだかと思えば、
悲痛な声で名を呼ばれ、扉を強く叩きつけられた。




このまま帰ってくれ、と強く願った。

けれど、気配は動かない。
そのままずるずるとしゃがみこむ気配。


何かを願うなんてしたことのない僕が、
これほどまで願っていると言うのに、
どうしてそれは叶えられることはないのだろうか。

怒りとその何倍もの恐怖のために、強く手を握り締めた。





帰らないなら気づくな、とそれでも願うしかできない。
最初で最後である願いは、叶えられることなく散った。

解除を伝える電子音。
カチャリと言う開錠の音。

開く扉。
現れた男。


その男は呆然とした顔で、何で、と呟いた。






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