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絶対に離れない。 何度も口にする。 それは、誓いに等しい。 それなのに、ヒバリは信じてくれない。 Egoist だから、いつも口論に発展する。 と言っても、ヒバリが怒るだけなんだけど。 そんないつもの口論の最中、爆音と共に煙幕が立ち上った。 それが消え去った後、何故か目の前にはヒバリの面影を持った大人がいた。 シャワーから上がったばかりなのか、 ポタリポタリと長めの前髪から伝い落ちる雫は、上質そうなバスローブに吸い取られていた。 俺が知るヒバリにはない色気。 俺が知るヒバリではない表情。 それから、 外から聞こえるツナの慌てた声とランボの泣きだしそうな声。 あぁ、10年バズーカってヤツか。 目の前にいるのは、10年後のヒバリ。 それなら、訊きたいことがひとつ。 「なぁ、俺、ずっとヒバリの傍にいる?」 死んでも離れてやらない、と勝手に誓った。 この気持ちは本物。 けれど、それは10年後も本物かどうか知りたかった。 ヒバリは何も言わず、 現状を知ろうとしてか部屋の中をゆっくりと見回していた。 その首筋に、見慣れぬ赤い痕。 鬱血したそれが、何を指し示すかなんて知らないワケがない。 「それ、俺?」 自分の首筋をトントンと叩いて訊いた。 訊きながらも、自信はなかった。 俺の知るヒバリは触れることを、許してくれたことなんて一度もないから。 それでも、期待を込めて訊いた。 黒い目が、じっと俺を見る。 その目の意味を探ろうとする。 けれど、答えなんて解らない。 だから、不安になる。 答えが返らないまま、ただじっと見つめあう。 俺は笑みを浮かべながらも、心臓がドクドクと馬鹿みたいに鳴っていた。 訊きたい答えなんてひとつのくせに、 帰ってくる答えがそれだと言う気がまったくしない。 本音を言えば、訊きたくなんてなかった。 下から聞こえていたツナたちの声が大きくなる。 足音が、どんどん近づいてくる。 もう少しで来るなと思ってドアを振り返れば、後ろで声がした。 「嘘吐き」 平坦な声のくせに、断罪するようなそんな声。 振り返れば、ヒバリが見ていた。 黒々としたあの目で、俺を見ていた。 「ヒバ――…」 「山本、ゴメ――…」 ヒバリを呼ぶ声と入ってきた沢田の声が重なった瞬間、 再び、煙幕がヒバリを包み込んで行く。 それを、何も言えず見ていた。 現状を知ったツナがランボに、どうするんだ、と泣きそうな声で詰め寄り、 ランボはランボで、知らないもんね、と今にも泣き出しそうな声で答えていたけれど、 そんなもの、どうでもよかった。 ただ、今から現れる俺が知るヒバリがどんな態度を取るのかが知りたかった。 知ることが怖いくせに、知りたかった。 煙幕が晴れる。 現れた俺が知るヒバリは、先ほどのヒバリと変わらないあの黒い目で俺を見つめた。 口がゆっくりと開かれる。 その言葉を、怖い気持ちで待っていた。 紡がれた言葉は――… 「嘘吐き」 何も言えなかった。 10年後のヒバリも、 そこから戻ってきたヒバリも、同じ言葉を吐き出した。 感情を読ませぬ黒い目でただ、事実を言うかのようにそれだけを言った。 10年後、俺は何をしているのか。 勝手に立てた誓いは、消え去ってしまっているのだろうか。 気持ちなど変わると知らないワケではないのに、 それでも変わらないと信じていたのに、 それがガラガラと音を立てて崩れる音を聞いた気がした。
06.12.16 ← Back Side.H →