男との口論の最中、爆音と共に煙幕が立ち上った。
それが消え去った後、何故か僕は知らないベッドの上にいた。





Egoist.





調度品はそれなりのモノだが、僕の趣味じゃない部屋に同じく趣味じゃないベッド。
隣には見知らぬ男が裸でうつ伏せに寝ていて、
ベッドの横に置かれたカレンダーの日付は、10年後の今日のモノだった。

どうやら10年バズーカと言うヤツで、僕は10年後に来たらしい。






10年後。
結局は、こうなんだよ。

僕の隣にあの男はいない。

僕が嫌だと言っても、絶対に離れないと言ったくせに、
ベッドの横に寝ているのは、見知らぬ男。


だから、嫌だったんだ。
できないことは口にするな。

信じる気などなくても、
毎日言われ続ければ、この僕でも洗脳されそうになるんだよ。


ねぇ、本当にどうなの?
――帰ったら、殺してやる。








でも、その前にやることがひとつ。

こんな未来など、いらない。
例え10年後の僕が困ろうが、今の僕には関係ない。


だから、僕は手を伸ばす。
伸ばした先に、手に触れる硬い感触。

先ほど見たカレンダーの隣に置いてあったそれ。

使ったことなどない。
それでも、使い方は知っている。

これを罪だとは思わない。
これは、罪じゃない。



安全装置を外せば、カチリと小さく音が響いた。
そのままトリガーを引けば終わり。

それなのに、引くことができなかった。

恐怖からでは勿論なくて、寝ていると思っていた男が、
僕に向かって銃を向けたからでもなく、その男に見覚えがあったから。








「…赤ん坊?」

問えば、見知らぬ男…ではなく、何処か面影を残す男はにやりと笑う。

「お前、バカだよな。
 そういうところ、嫌いじゃねぇけど。
 いい加減、素直になれよ」

「…僕は、いつも自分に正直だよ」

僕は、いつも自分の好きなようにする。
そこには、他人の意見など介在しない。


「そういう意味じゃねぇよ。
 もっと我侭になれってことだよ」

「同じでしょ?」

「違うって言ってるじゃねぇか。
 だから、お前は馬鹿なんだよ。
 10年経っても、変らねぇ」

呆れたように笑う男。


「だから、お前は間違うんだ」

「何――…」

何それ、と最後まで言わないうちに、空間が歪み煙が立ち込める。

完全に消え去る間際、
未来の赤ん坊らしき男が、間違うなよ、と笑う声が聴こえた。







次の瞬間には、元いた時間に戻っていた。

愕然とした顔で僕を見ている男がいて、
部屋の隅で怯える子どもと、同じように怯えた顔をした沢田がいた。

けれど、そんなことはどうでもよかった。
戻ったら男を殺そうと思っていたことでさえ、どうでもよかった。




「嘘吐き」

ただそれだけを、男に言いたかった。
男は打ちのめされたような顔で、僕を見つめていた。
 





06.09.15 Back   Side.Y →