5年って、結構長くって。

忘れることができなくても、
もう過去にしてしまえばいい、とか、
もう思い出にしてしまえばいい、とか、
自分でも思うけれど、それができずに未だに探し続けている。











      君 が い 出 に な る 前 に 










「おい、見ろよ」

渋滞の車中。
ハンドルを握る相棒が言った。

「何だよ」

視線の先は、世界的有名なホテルの前にいる男。
白髪が混じっているものの紳士的雰囲気を醸し出している。
ああいうのを、きっとロマンスグレイと言うのだろう。

「何だよ、じゃねぇよ。
 お前、次の取引先相手の顔くらい覚えとけよ」

呆れる相棒。


「あの紳士が?
 悪いことなんてやってません、って感じじゃねぇか」

「表はな。
 ホテル王だし。
 でも、最近武器商人と結託してきたんだよ。
 だから、次の取引相手。
 お前、ホントにいい加減やる気出せよ」

ホテル王ねぇ。
そのままでも儲かってそうなのに、
地位も権力も手にして、更に何を望むのか。

それよりも。

「やる気ねぇ。
 …まぁ、取引ん時はうまくやるから大丈夫だろ」

いつだって、それで上手くいっている。
俺の実力と言うよりも、
白い目で見てくる相棒の実力と言うのかもしれないけれど。






「あ、車来た。
 って、誰か待ってたのか?」

ホテル王が待つ相手。
その相手を知れば、取引が優位に進むかもしれない。
幸いにも渋滞のせいで、もう少しこちらの車は動きそうにない。

車から降りてきたのは、黒い髪の細身の男。
後ろ姿くらいしか見えないけれど、黒髪に華奢な身体。
東洋人の男だろうか。

ホテル王との繋がりは?

「ありゃ、愛人だよ」

弱みになりゃしねぇ、と相棒が呟いた。
それだけに、そこそこに知れ渡ってるのかもしれない。

興味を失くした相棒越しに、ふたりを何とはなしに見ていた。
そして、見えた横顔に言葉を失った。


――ヒバリ?
















「…な、なぁ。
 本当にアレが愛人なのか?
 間違いじゃなく?
 もう一度、よく見てみろよ」

震えそうになる声を押しとどめて、相棒に問う。
相棒は面倒くさそうに窓の外を確認して、そうだ、と頷いた。

「4,5年前から囲ってるらしいぜ。
 東洋人ってだけで、あとは詳しくは解ってない。
 キッチリ情報をガードしてるしな。
 それに、態々アメリカから高が数日間の取引のために連れてくるくらいだから、
 そんだけ入れ込んでんじゃねぇの?」

それにしても、まだ子供に見えるのは東洋人だからか、
と、呆れながらに呟かれる声を、呆然としながら聞いていた。










5年間ずっと探していて、
見つかったと思えばコレって何なんだよ。

嘘だと言って欲しかった。


けれど、
それと同じだけ、やっと見つけた、と思ったのも本当。










混乱する俺を置いて、
やっと渋滞から開放されるように車は緩やかに進みだす。

流れる視界の先、
ホテル王に抱擁され、キスをされたヒバリが見えた。
その後、見たことのない幸せそうに笑うヒバリがいた。

瞬間、生まれた黒い感情を何と言うのか。




ホテル王との取引まで、あと数日。






もとより、
過去にするつもりも、思い出にするつもりもなかったけれど、
見つけたからには、絶対に取り戻す。


取り戻したら、ヒバリに自由なんてやらない。
もう置いていかれるのは、ごめんだ。






    08.09.29 Back   Next →