「恭弥」

振り返った先にいたのは、ロマーリオ。

 
 
 
 

 
  
 
 
 
            ア イ  イ ロ 
   
 
 
 


 
 
 
 

「ちょっと老けたね」

「ま、そう言うなよ」

端的に言えば、苦笑された。

「何の用?」

「お前、ここが何処か解ってるか?」

「イタリア」

それも、ディーノのシマだろう。
じゃなきゃ、こんなに簡単に僕を探し出すことはできない。



「で、何?」

ここが何処かなんて、今更なことだった。

来たことはないけれど、
それでも何となくだが言語を理解できることを知っているくせに。

「あー、お前、どうすんだ?」

「帰るよ」

こんなトコにいても意味なんてない。



「金はあるのか」

「馬鹿にしてるの?」

あるよ、と財布に手を伸ばしたが、あるはずの所になかった。

赤ん坊に襲われる前、襲撃に行った。
その際、トンファー以外のモノは邪魔になるからと草壁に預けていた事を思い出す。


「…ねぇんだな」

その言葉にムッとして、手を伸ばす。

「携帯貸して」

草壁に連絡してホテルの手配と、送金をしてもらわなければ。

「…ダメだ」

「どうして?
 貸してくれてもいいだろ?
 何もタダで貸せなんて言ってない。
 これはうちの財団に借りを作ったと思えばいい」

キャバッローネには及ばないが、
うちの財団だってそれなりの規模を持つ。

ディーノには会うつもりなどないが、
キャバッローネとの取引には魅力的なモノがあるのも確か。

互いに利益を得るというのなら、悪くない話のはずだ。
それなのに、ロマーリオは頷かない。




「…ボスの命令だ」

「…っは、何それ」


あの人は結婚して、まだ生まれていないとはいえ子供までいる。
僕に用はないはずだ。

そもそも、僕はさよならと言ったのだ。
あんな偶然でもない限り、二度と会うつもりなんてなかった。

「恭弥、解ってるだろ。
 ここはうちのシマだ。
 ボスが権力者だ、逃げられやしねぇ。
 それに…」

今さらお前に何もしない、と言われた。




その言葉が、嫌に胸に重く響いて言葉を失う。

それどころか思考まで停止して、
気がつけばまたディーノの屋敷らしき場所に連れ戻されていた。









会いたくない。


僕が決めたことなのに、
ディーノを目の前にして、本当にそれができるのだろうか。

半年前、
切り捨てたはずの過去は、本当に切り捨てられたのだろうか。

それを知るのが、怖かった。






09.11.29〜 Back   Next →