「山本も書く?」 手渡された細長い色紙。 懐かしいそれは―― Summer Lovers Day. 「短冊?」 「そ。 懐かしいだろ? リボーンがどっから手に入れたのか知らないけど、笹と一緒に持って来たんだ」 ツナが苦笑するのを横目に、短冊をじっと見つめた。 「懐かしいな」 「書いたら、中庭にある笹に飾るといいよ。 リボーンがおもしろいと思った願いなら叶えてくれるって」 「相変わらず、おもしろいことが好きなヤツだな」 「中身はどうでも、一応まだ子どもって歳だからじゃない?」 小僧が聞いたら、弾の一発でも飛んできそうなことを言う。 「ま、適当になんか書くよ。 叶えてくれるなら、ラッキーだしな」 そうしなよ、と笑って見送られた。 与えられた部屋で、短冊を見つめる。 願いを書くんだっけ? そう言えば、何で願いを短冊に願いを書けば願いを叶えてくれるんだろうな。 彦星と織姫が年に一度だけ会う日としか、もう覚えていない。 そんな日に、 他人の願い事なんて叶えてる暇が彼らにあるのか。 そもそも、願いを叶えるというのは誰なのか。 考えた所で思い出せないのだから、早々に考えることを放棄した。 手の内にある、赤い短冊。 願いは何かと考えるまでもなく、スラスラと右手は字を綴っていた。 部下に示しがつかないとか、考えない。 どうせアイツらは日本語なんて読めねぇし、読めたところで俺は気にしない。 「お前も書いたのか」 にやにやと小僧が訊いてくる。 「おう」 飾り終えた短冊を小僧が手に取り、鼻で笑う。 「お前、バカだろ」 「かもな」 でも、しょうがねぇだろ。 それしか、思い当たらなかった。 というより、考えるまでもなく書いていたんだから。 何年も会ってない。 会いたいと、強く思ったこともない。 けれど、時折何をしてるか考えた。 追って来てくれないかと、有り得ないことを考えた。 それって、執着しない俺が執着してたってことだろ。 そうなれば、願いなんてひとつしかない。 「会いたいなら、会いに行けばいいだろ? 今は忙しくねぇしな」 「俺は、願いを書いたんだ」 小僧が、訝しげな目で俺を見る。 「俺は自分でできることなら、自分で勝手にやるよ。 願うまでもなくな」 小僧の、意味が解りかねる、という目が、苦笑に変った。 「何だ、お前、俺に後押しして欲しかったのかよ」 「情けねぇことにな」 どんな顔して会えばいいのか、解らない。 会っても、覚えてもらえてるかも解らない。 「あっちは、明日晴れだとよ」 突然の言葉に、今度は俺が意味が解らない。 「滅多に、七夕に晴れることなんてねぇんだろ?」 にやりと笑う顔に、その辺のことを適当に理由にしろ、と言っているのが解った。 「そう言えば、晴れた七夕って拝んだことなかったな」 一緒になって、にやりと笑った。 「じゃ、俺行ってくるわ」 「空港で俺の名前、出せよ」 小僧が、にやりと笑う。 「お前の願い気に入ったから、旅費くらいは出してやるよ。 だから、安心してふられて帰って来い」 励ましてんだか、けなしてんだか解らない言葉を受け取って、 ファーストクラスを利用してやると無駄に心に決めた。 「数日したら帰ってくるから、じゃあな」 「一人でか?」 じっと見上げる目には、人を食った笑みは消えていた。 「たぶんな」 苦笑で答えるしかない。 「だろうな」 小僧も、苦笑した。 まぁ、そんなもんだろう。 すんなりついてくるヒバリなんて、想像がつかない。 ついてくるというのなら嬉しいけれど、これまでの数年が何だったのか解らない。 追いかけて来て欲しかった。 ヒバリがヒバリらしく生きれる世界がある、 という尤もらしい理由もあったのに、それでもヒバリは来なかった。 そんなヒバリが、 高々数年ぶりの再会だけでついて来てくれるとは思えない。 でも今はそんなことより、ただ会いたかった。
06.07.09 ← Back Side.H →