過去には、どう足掻いたところで戻れない。
まして戻れたところで、私は同じことをするのだろう。

そして、それを決して過ちだったとは認めないのだろう。







Who is loved?







「だから、俺はあの時止めろって言ったんだ」

扉を開けるなり、ハーレムが怒鳴り込んできた。
怒りを露にしているその表情を見て、何が言いたいのかを悟った。

「…そうだな」

その言葉しか、浮かんでこない。
静かに告げれば、ハーレムは言い返せなくなったのか舌打ちをした。

「本気でそう思ってないだろ」

その言葉に、苦笑しか漏れでてはくれない。





落ち着かせるために、紅茶を淹れた。
目の前に差し出せば、ハーレムはそれを無視して私を見据える。

「なぁ、兄貴。答えろよ」

「何を?」

「さっきの質問だよ。
 本気で思ってないんだろ?」

「…そうだね。
 思っているけど、思ってないね」

ハーレムが眉をひそめる。



「あの頃の私が欲しいと思ったモノは、彼だけだったよ。
 だから例え今こうやって苦しむと解っていても、止めなかったよ」

「…兄貴だけでなく、シンタロー自身も傷つくと解っていてか?」

嫌なことを言ってくれる。
核心をつく言葉は、人を傷つける。

「…解っていてもだ」

「そうかよ。
 それならもう、俺は何も言わない。
 勝手にしろ」

席を立ち扉へと向かうハーレム。
けれどその足が止め振り返り、私を見据える。

「最後の忠告だ。
 さっきシンタローに言われた。
 望むだけの金と引き換えに兄貴とアイツの過去を教えろ、とな。
 サービスやアイツに直接訊くような馬鹿なヤツだとは思わないけど、
 それだけシンタローが追い詰められているってことも覚えておくんだな」

吐き捨てるように言い捨て、ハーレムは出て行った。






そして私は立ち尽くす。
馬鹿みたいに、立ち尽くす。

そこまでシンタローが追い詰められていたなんて…。
――気づかなかった、とでも私は言いたいのだろうか。

そんなことがある筈などないのに。
シンタローのことは、シンタロー自身よりも解っているつもりだ。
あんな顔を見ておいて、気づかなかったとは笑わせる。


また、私は逃げていた。
いい加減にしろ。

向かい合うと決めたのは、私自身だろう?






10.10 Back    Next