覚悟を決めても、それは行動へと移すことは難しい。 これがシンタローのこと以外なら、考えるまでもないというのに…。 Who is loved? ハーレムが去った後総帥室へと向かえば、ティラミスに今日はもう自室に戻ったと言われた。 その言葉に胸を痛めながら、シンタローの部屋に向かったのが2時間前。 それなのに、私は未だに扉の前に立ち尽くしたまま。 ノックをしようと上げる手が、震える。 声をかけようとすれば、声が出ない。 ただ、愚かしくも立ち尽くしている。 気配を消していないため、シンタローは私がここにいることを知っている。 けれど、シンタローは何も言わない。 その代わり扉に近づき、背を預け座り込んでいる気配だけが伝わる。 シンタローも気配を消すことはなく、ただ静かに私の行動を待っている。 それすらも解っている。 けれど、未だに私は戸惑っている。 1枚。 たった1枚のこの扉が、何もかもを閉ざす。 何を戸惑っている? 何を恐れている? 覚悟は何処に消えた? 震える手を伸ばす。 けれどそれが届く前に、諦めたのかシンタローが立ち上がる気配が伝わった。 迷いは、一切消えた。 考えたところで答えが出ないのならば、考えなければいい。 思うが侭でいい。 「シンタロー」 酷く焦った声で名を呼ぶ。 扉の向こうのシンタローの動きが止まったのが解る。 「…シンちゃん、話をしよう。 パパの話を聞いてくれないかな。 シンちゃんも、聞きたいことがあるなら聞いて…」 お願いだから、と懇願する。 失うモノはもう、シンタロー以外何もない。 それは逆に言えば、私にはもうシンタローしかいらないのだ。 血を分けた兄弟や本当の息子ではダメなのだ。 なんて、愚かしい。 けれどそれが、偽りようのない真実。 「シンちゃん」 もう一度名を呼べば、静かに扉が開けられる。 数日ぶりに見たその顔色は悪く、やつれていた。 胸が痛むのはその姿を見たからではなく、浮かぶ表情。 嘲笑と自嘲が混じる笑み。 抱きしめようと手を伸ばす。 けれどそれは、シンタローの一言によって止められる。 「触るな」 初めて聴く、嫌悪と怒りが混じった声。 「…シンちゃん」 力なく呟けば、シンタローは部屋の中へと踏み出す。 私も後に続く。 奥へと入れば酒の匂いが充満しており、酒瓶が転がっている。 「…飲んでたの?」 「今日はまだ飲んでねぇよ。 匂わなかっただろ?」 シンタローが吐き捨てるように言った。 その言葉に私はただ、そうだね、としか言えなかった。 荒れた部屋。 歪んでしまったシンタロー。 そして胸を痛めながらも、何処かでまだ愛されていることを安心する私がいた。
10.11 ← Back Next→