促されソファに座ったがシンタローは、壁に寄りかかり私と距離を取る。
手を伸ばしたところで、触れられない距離。







Who is loved?







「シンちゃん…座らないの?」

問えばシンタローは返事をせず、近くの棚からボトルを取り出しそのまま口に運ぶ。

話したければ勝手に話せ、と全身でそう言っているかのよう。
毀れるのは、溜息。

どうすればいいのか解らない。
ただ私にできることは、話すこと。
順序立ててではなく、思いのすべてを話すこと。

落ち着くために、深く目を閉じた。

浮かぶのは、笑顔。
誰よりも愛してやまないその姿。

ゆっくりと目を開け、そして逸らすことなくシンタローを見つめる。

覚悟は、できた。





「私が愛しているのはシンタロー、お前だけだよ」

すべての思いを込めて告げた。
けれどシンタローは、一瞬辛そうな表情をした後――笑った。
あの笑みで。
そして、告げる。

「そりゃ、愛してるだろうよ。
 アンタが愛したヤツの姿だからな」

心臓を抉られたかと思うほどの痛みが走る。
シンタローが彼とのことを知っていたからではない。
覚悟はしていたから、それはいい。

耐えられないのは、その表情。
泣くことを耐えるように、そして自嘲の笑み。



「シンタロー…」

触れようと、抱きしめようと立ち上がり手を伸ばす。
けれど遮るように、シンタローが言葉を続ける。

「アンタの愛したヤツは、アンタを見なかった。
 でもアンタに育てられ、アンタしか目に移らないように育てられた俺は違う。
 アンタしか…知らない。
 だからアンタが…アンタが俺を愛していないはずなんてない。
 愛した人間の姿で、愚かしくも俺はアンタに答えていたんだからな」

今にも泣きそうな声で表情で、シンタローが叫ぶ。
胸がギリギリと音を立てて、痛みを告げる。

「シンタロー、違うよ。
 私は、お前だから愛しているんだよ。
 彼と似ていたからじゃなく、お前だから…」

「生まれた時から、この姿じゃなかったらアンタはどうしてた?」

逸らすことなく見つめ言い放たれた言葉に、言葉を失う。
それを悟ったのか、シンタローはまたあの笑みで笑う。

「…どうした?
 何も言えねぇのかよ?」

「…それでも今、私が愛しているのはお前だよ」




目を逸らすことなく告げた言葉は、嘘偽りのない本心。

シンタローの目が揺れ、視線を逸らされる。
一度は躊躇した手を伸ばす。

数日振りに、シンタローに触れた。
ピクリとシンタローは身体を震わしたけれど、払われることはなくそれに安堵する。

両手で頬を挟み、視線を逸らされないようにしっかり見つめる。




「シンタロー。
 私は昔、彼を愛していたよ。
 けれど、彼は私を愛していなかった。
 だから、お前が彼に日に日に似ていくのを見て…辛かったよ」

告げた言葉に、シンタローが視線を下げ唇を噛み締める。
それでも、私は続ける。

「でも…それでも、私はお前が生まれて嬉しかった。
 初めて…愛おしい、という言葉を知ったよ。
 彼を愛していたけれど、それは心休まることなどなくて苦しいばかりだった。
 けれど、お前を愛おしいと思う気持ちは違ったよ。
 本当に嬉しいし、幸せなんだ」

頬を触れていた手に力を入れ顔を上げさせれば、戸惑う顔があった。
受け入れていいのか、拒絶するべきなのか。
揺れ動いている、とその表情が告げてくる。



「シンタロー。
 私は、どうすればいいのか解らない。
 けれど、本当に私にとって、お前がすべてなんだ。
 過去にいろいろあったけれど、それを含めてお前を愛してるんだ」

シンタローは何も言わず、私を見上げる。
そこに戸惑う表情は、消えていた。
無表情、というわけではないが、読めぬ表情が浮かぶ。

「シンタロー…。
 それじゃ、ダメかい?」

気が付けば、何処までも情けない声で訊いていた。






04.10.11〜11.16 Back    Next