初めて欲しいと思ったモノ。 けれど、それは決して私のモノと成り得ないものだった。 Who is loved? 「兄貴、ジャンに手を出すの止めろよ」 珍しく家に帰ってきたかと思えば、苦虫を噛み潰したような顔で告げてくる。 「…いきなり凄いことを言うね。 ハーレムは、ジャンのこと嫌いじゃなかったのかな?」 呆れながら問えば、話しを逸らすな、と言われる。 「逸らしている気はないけどね」 「そうかよ。 なら、俺の言うことも聞いてくれよ。 ジャンから手を引けよ」 いつになく真剣な顔で、私を見つめてくる。 真剣な態度には、真剣に返す。 そう教えたのは他でもない私自身。 「理由は?」 「ジャンは、サービスしか見てない。 サービスもジャンを選んでいる。 それなのに、兄貴が横槍を入れてどうする? 一族同士が争うのは、ゴメンだ」 「それは本音かい?」 じっと見据えて問えば、ハーレムは一瞬怯み目を逸らす。 「…兄貴がやっていることは、子どもが駄々をこねているのと同じだ。 欲しい玩具を目の前にした子供が、手を伸ばし泣き喚いているのと同じだ」 あぁ、そうだね。 知ってるよ、そんなこと。 でも、本当に欲しいと思ったのは、アレだったんだ。 アレだけだったんだ。 自身が望んで手に入れたモノなど、何一つないことをお前は知らないのだろう。 世界も、別に欲しいと思ったワケじゃない。 ただ育った環境がそうだった。 後に引けない状態だった。 それだけだ。 そんな私が欲しいと初めて思ったモノが、ただサービスのモノだった。 それだけだよ。 「…なぁ、兄貴。 アレはあんたのモノにはならない。 絶対に、だ」 逸らしていた目を私に向け、ハーレムが言い切る。 それも、知っている。 浮かぶのは、苦笑。 それを馬鹿にされたと取ったハーレムは、目を覚ませ、と言い捨て出て行った。 目は、覚めている。 アレが決して私の手に堕ちることなどない、と解ってはいる。 ただそれでも欲しい、と思うだけだ。 ふたりの大切な弟をもってしても、私を止めることが出来なかった。 唯一止めることができたかもしれないルーザーは研究室に閉じこもりで、彼とのことを知らなかった。 そのため幸か不幸か、誰も私を止めることが出来る人間などいなかった。 ――いや、ある意味いたのかもしれない。 彼自身の死で、この愚かな関係は幕を引いたのだから。 殺したのは、ルーザーだった。 私やサービスと彼との関係を知ったからではなく、彼が赤の一族の番人だと知ったためだった。 泣き崩れるサービスと罪の意識に苛まれるルーザーを見て、私はこれが罰だと思った。 あの時、生まれて初めて『後悔』というものを嫌というほど知った。 それなのに、罰はまだ終わりではなかった。 二度目の罰が、今時を経て私を襲う。 受けるべき罰は、あんなモノでは済まされなかったと言うのか。 やっと本当に大切な相手を見つけたのに。 その相手も自分を想ってくれていたのに。 これは当然の報いなのだろうか。 けれど、彼は戻っただろ? サービスの元に再びもどっただろ? それならば、私が初めて得た幸せを奪わないでくれ。 身勝手だとは解っていながらも、そう思うのことを止められない。 初めて、愛したのだ。 彼を想ったようにただ欲しいと思うのではなく、心も望むほどに愛しているんだ。
09.26〜10.10 ← Back Next(Side.H)→