それは、遠い記憶。

忘れていた記憶。
忘れたかった記憶。







Who is loved?







「兄さん、ジャンに必要以上に構うのは止めてくれませんか?」

眉間に皺を寄せ、サービスが私に詰め寄る。
この弟がこんなにも感情的になることを珍しいと重いながらも、原因は解っていた。

「サービス、何を言っている?
 別に私は必要以上に構った覚えはないよ。
 それとも、お前はジャンから何か訊いたのかな?」

笑みを乗せて問えば、サービスの顔が歪む。

「…何も言ってませんよ」

「だったら、別にお前の気にすることなどないよ」

笑顔で告げれば、悔しそうに唇を噛み締めてサービスは出て行った。










「…なんてことがあったんだけどね。
 ジャン、君は何も言っていないんだね?」

嫌悪を隠そうともせず私の顔を見ない彼の顎を掴み笑って言ってやると、
私の顔を睨みつけ嘲笑を浮かべる。

「何を言えと?
 言うほどのことなど、あなたと私との間には何もありませんよ」

「そうかな?私はあると思うけどね」

言いながら噛み付くようなキスをすれば、舌を噛まれた。
僅かに広がる錆びた味。

「…飼い主に牙を剥くなんて、躾ができてなかったかな」

告げれば、彼はまた嘲笑を浮かべる。

「私の飼い主は、あなたじゃない。
 だから、あなたに牙を剥いているんですよ」

胸が軋む音が聞こえた。
けれど浮かんでいるのは、彼と同様に嘲笑だった。

「でも君は牙を剥くだけでなく、私に腰も振るじゃないか」

「諦めていますからね。
 あなたは私をどうやっても手放す気などない。
 だったら、この身体など差し出しますよ。
 でも、それだけです」

身体はやる。
けれど、それ以外はやらない。

嘲笑を浮かべ、彼は言い切った。
それに余裕の笑みで返し、再びキスをし服に手をかけた。







胸が軋む音は止まなかった。
彼が選ぶのは、絶対に私ではなくサービスだ。

それは、初めてサービスに紹介された時から知っていたこと。
だから、この胸が痛む理由などない。
――それなのに、胸が痛むのは何故だというのか。






09.26〜10.10 Back    Next