それは、何の変哲もないビデオ。 今より少しだけ若い私がいて、幼いシンタローが笑っている。 それだけ。 でも、それは本当に――? Who is loved? イギリスの別荘での休暇を撮ったビデオだった。 芝生に寝転がり、私の膝の上で楽しそうに声を上げて笑うシンタロー。 この時のシンタローは、5歳。 まだ私のことを、パパと呼んでいた時。 苦笑と共に思いを馳せていれば、ビデオの中のシンタローが可愛い声でパパと呼ぶ。 「パパ、僕のどこが好き?」 黒く艶やかな目が、期待を込めて私を見上げる。 「シンちゃんのすべて」 抱きしめ答える。 「それ答えになってないよ」 思わず苦笑が漏れた。 それは頬を膨らます愛らしいシンタローに対してでもあり、 決して私を選ぶことも愛すこともなかった彼を思い出したからでもあった。 その思いを振り切るように笑ったところで、苦笑が濃くなっただけだ。 「すべてじゃ答えにならないのかな。 んー…それなら顔。 シンちゃんのお顔が好きだよ。 パパのことを見てくれる黒い瞳が綺麗だし、艶のある黒い髪も大好きだよ」 「えー、僕パパと同じ色がよかった。 パパのおめめは空色で綺麗だし、パパの髪の毛も太陽の色で綺麗だもの!」 その言葉に、ビデオの中の私は寂しそうに笑った。 「パパ?」 それに何かを感じたのか、シンタローが不安そうに見上げてくる。 そんなシンタローを安心させるように抱きしめ、笑った。 「…何でもないよ。 シンちゃん、大好きだよ」 キスと共に告げれば、シンタローは照れたように笑った。 「僕も、パパのこと大好きだよ。 パパ、大好き」 そこで、ビデオを切った。 見ていられなかった。 シンタローのあの様子の原因が解った。 ――シンタローは、気づいたのだ。 両手で顔を覆う。 ツケがまわってきた。 昔のツケが。 愛して…いたんだよ。 言い訳のように呟けば、誰を?、と問う声が聴こえた気がした。 その声はシンタローのものなのか、彼のものなのかそれすらも判断ができなかった。
09.26 ← Back Next→