向かい合うと決めたのに、踏み出せないでいる。 拒絶されることが怖いと正直に告げれば、シンタローは笑うだろうか。 Who is loved? 真夜中に緊急回線のベルが鳴り響いた。 「マジックさま、お休みのところ申し訳ありません」 「ああ、いいよ。 それより、何かあったのかい?」 「火災報知機が作動しました」 いつになく慌てたティラミスの声。 万全のセキュリティーを施しているこのビルで火災が起こったとしても、大したことではない。 スプリンクラーも消火剤も、至るところに備え付けられているから。 そんなことは百も承知だろうに、何故ティラミスはらしくなく慌てている? 嫌な予感がじわりじわりと侵食してくるが、それを抑えながら訊いた。 「…火の元は何処だい?」 「………」 その沈黙こそが、答えだった。 「…シンタローの自室かい? それとも、総帥室かな?」 「…総帥室です」 漏れ出るのは、苦笑と溜息。 誰かの仕業でも不始末でもないと、確信していた。 シンタローが自分で火を放ったとしか考えられない。 「…もう消火は終えたのかい?」 「いえ…。それが…」 言いよどむティラミス。 「ティラミス?」 「スプリンクラーも消火剤も僅かな間しか作動していないんです。 シンタローさまが、装置を破壊したようで…。 部屋に入ろうとしても鍵を掛けられてしまって…」 言葉を失う私に、ティラミスが慌てて告げてくる。 「警備員からの報告ですと、シンタローさまは何かに火を放った後、 作動したスプリンクラーと消火機能装置とカメラを破壊したそうです。 カメラを破壊される前に映っていたモノから推測すると、 火を放たれたものは多くはなく、惨事になることはないと言っていましたし、 熱反応を見たところ、一部でしか燃えていないとも言っています」 「…そうか、解った。 私が行くから、お前たちはもう寝なさい」 「…申し訳ありません」 「ティラミスが謝ることなどないよ。 …私が原因だろうからね」 その言葉に戸惑う反応をティラミスは示したけれど、構っていられず回線を切った。 そして再び漏れ出たのは、自嘲の笑み。 溜息ひとつ吐いて、唯一の総帥室のスペアキーに手を伸ばした。
09.25〜26 ← Back Next→