足が勝手に駆け出す。 衝動、と言うものを、何十年ぶりに体験していた。 What am I for you? 彼に会いたい。 けれど、何処にいるのか解らない。 唯一知っていそうな相手…キンタローを探しに走る。 通りすがる団員が奇妙な顔を浮かべるのも気にせずに、 出会う人すべてに声をかければ、すぐに見つかった。 「キンタロー、彼は何処にいる?」 「知りたいのか?」 無表情のままに、問われる。 「あぁ」 「理由は?」 理由? ただ私は、知りたいだけだ。 彼が、私にとって何なのか。 私が彼と一緒にいて、何故笑っていたのか。 ――そして、何故こうも胸が痛むのか。 「知りたい、と思った。それじゃダメかな?」 焦る気持ちとは裏腹に、答える声は余裕に満ちていた。 キンタローはそんな私を暫く眺め、無表情のままに言葉を吐き出す。 「…それは、俺がとやかく言うことじゃない」 「じゃあ、教えてくれるね」 頼むのではなく、命令とも取れる口調になってしまったが、 キンタロー気にすることもなく淡々と答える。 「知らない」 けれど真っ直ぐに目を見つめながら告げられた言葉は、予想外のモノ。 「知らない?」 「ああ、アイツは出て行った」 「…止めなかったのかい?」 無意識のうちに装っていた余裕が、静かに剥がれ落ちる。 「俺では、止められない」 未だ逸らすことのなかった視線が、責めるように見えるのは気のせいなのだろうか。 「…心あたりは?」 「…ヒントは教えてやった」 それだけ言うと、キンタローは背を向け歩き出した。 ヒント? 知らない、と言いながら、何を教えてくれたのだろう。 キンタローが私にくれたモノは、ビデオだけ。 それにヒントがあるとでも? 部屋に帰り、もう一度見る余裕などない。 何が映っていたか、思い出せ。 しかし、目を閉じて浮かび上がるのは、 あの子どもの笑顔と、信じられなくも笑い返す自分の姿。 背景に何が映っていただろうか。 芝生と、ベンチと…噴水。 けれど、そんなモノは記憶にない。 私が今持っている記憶に、その場所は存在しない。 あれは、一体何処なのか…。 ふらふらと団内を歩いていれば、グンマに出会った。 「お父様!?」 何故こんな所を歩いているのか、と大きな目を更に大きくする。 これは、私の息子。 では、彼は? 彼もビデオの中で、私をパパと呼んでいた。 「あぁ、グンマ。 『シンタロー』と言った彼は誰かな?」 その言葉に、グンマは静かに笑った。 「…シンちゃんは、シンちゃんだよ」 答えではない答えを返される。 深く追求することを拒む雰囲気が漂っていた。 「…そうか。 では芝生とベンチと噴水と聞いて、思い浮かぶ場所は何処かな?」 漂う雰囲気を払拭するかのように明るく問えば、グンマは不思議そうな顔をする。 「芝生とベンチと噴水? イギリスのおうちじゃなくて?」 「そう、そこ以外に」 「えーっと。…あ、公園!」 嬉しそうに笑いながら、告げてくる。 「公園?」 公園と自分が結びつかない。 あの場所とは、違う気がする。 けれど続くグンマの言葉に、その場所だと確信した。 「シンちゃんのために、お父様が作ったんだよ。 団は硬質で情操教育に悪いから、って態々隣の敷地に大きい公園作ったんだ。 ほら、見えるでしょ?」 指差された窓の外を伺えば、ビル街の中にぽっかりと緑の空間が。 「本当はお父様が作ったんだから、『公園』じゃないんだけど、 シンちゃんが『公園』って言ったから、そのまま『公園』って言ってるんだよね。 今でも、団のみんなが休憩中に休みに行ったりするんだよ。 昔、お父様の仕事の合間にふたりで抜け出して、よく遊んだってシンちゃんが言ってた」 その言葉を聞いて、また駆け出した。 彼のために作ったという公園。 この私が、誰かのために? しかも、仕事を抜け出して遊ぶ? 信じられないことばかりだ。 彼は、何だ? 衝動が、生まれる。 恐怖にも似た衝動が。 彼に会って知ることは、事実なのか―― それとも、真実なのか。
04.11.08〜11 ← Back Next →