ひとり外に出て、立ち尽くす。
行く場所など、何処にもなかった。







What am I for you?





    

何処に行けばいい?
パプワを探しに?
けれど、どうやって?

金は持っていない。
一族の持ち物である車やヘリを、使う気などない。

それなら、この足で行ける所まで?
何処へ向かって?


呆然と立ち尽くす俺を見て、警備員が訝しい視線を寄越す。
それに力なく笑って返しながら、とりあえず前へと進む。
早く、この敷地を出たかった。





その場凌ぎと落ち着いた場所は、本部すぐ横の公園。
座り込んだベンチの目の前に、大きな噴水がある。
夜になるとライトアップされて、キレイだった。

もう、何年ぶりだろうか。
小さい時はよく来てたのに。

ぼんやりと昔を思い出せば、笑うマジックまで思い出した。
一緒に、何度も来ていた。

マジックの休憩の合間に、ふたりで散歩をしてた。

手を繋いで、ずっと一緒だよ、と笑いかけるマジック。
その手を握り返し、頷いていた。

ずっと一緒だと言ったくせに、忘れやがって…嘘吐き。






「総帥?」

その声に顔を上げれば、団の制服を着た見知らぬ男が立っていた。
手にはビニール袋があることから、休憩中なのだろうか。
男は、不思議そうに俺を見ている。

マジックのことは極一部の者にしか知らされていないため、
明日帰還予定の俺が、私服で今ここにいることが不思議らしい。

俺の現実もこの男と同じだったらいいのに。
明日予定通りに帰還して、マジックが馬鹿みたいに抱きついて迎える、
そんな変わらないと思っていた日常の世界に戻りたい。

有り得るはずなどないけれど。


「俺、もう総帥じゃねぇんだ」

苦笑を浮かべ返せば、男は更に解らないという顔をする。
けれど、それ以上答えてやる義理はない。

「休憩の時間がなくなるんじゃねぇの?」

そう言えば、男は慌てて一礼をして去っていった。







あぁ、もう何が何だか解らない。
見上げた空は、空気が澄んでいて高く感じる。

溺れそうになる。
足掻くように、右手を伸ばした。

けれど、助けてくれる手は現れない。


いつだって救い出してくれていた手が、今はもうない。
俺の知るマジックは、いない。
そしてマジックの中にも、俺はいない。

虚無感と孤独感が入れ替わり押し寄せる。
…泣きそうになる。

涙が零れぬように、と強く目を閉じたら、
闇となった視界にマジックが浮かんでしまい、余計に泣きそうになる。

どんなに手を伸ばしたところで、救いの手は現れない。



諦め手を下ろそうとすれば、何かが邪魔をする。
――目を開ければ、俺の手を掴んだマジックがいた。






04.11.08〜15 Back   Next(Side.M) →