最初、真っ青な顔をしていた。
次は、不安に怯えた顔をしていた。
――そして、最後に彼はキレイな笑みで笑った。







What am I for you?







彼は、一体誰なのか。
私以外の誰もが知っているようだった。

サービスの友人によく似ていた。
けれど、彼ではない。

では、誰だ?






ひとり残された病室で、考える。
手に持った雑誌など、先ほどから頭に入っていない。

余程考えに夢中になっていたのか、キンタローの気配に気づくのに遅れてしまった。



「キンタロー、どうかしたのかい?」

笑みを浮かべて問うたところで、キンタローは無表情のまま。

「本当に、シンタローのことを覚えていないのか?」

「シンタロー?
 さっきのジャンによく似た子かな?」

知らないけれど、気になっている、と言えないのは何故か。
考えるように眉間に皺を寄せれば、キンタローの眉間にも皺が寄る。

頷きながらも、忘れていることが罪、とでも言いたげな態度。

一体、彼は私にとって何なのか。
そして、キンタローにとって何なのか。

気になる、を通り越し、単なる興味に変わった。

いつもそうだ。
他人が必死な時ほど、自分は冷めていく。






「さぁ…。覚えてないね。
 でも――…」

キレイな笑顔だったね、と笑う。

それは、事実。
本当に、キレイな笑みだった。

泣くのを耐えて笑う姿は、とてもキレイで。
この私の胸が、痛むほどだった。



「…本当に覚えていないんだな」

言外の意味を読めないキンタローは、眉間の皺を深めながら呟いた。
感情をあまり表に出さない子だと認識していたが、
その表情は衝撃が隠しきれておらず、改めてシンタローという彼のことに興味を抱く。

「覚えてないよ。あの子は誰だい?」

けれど興味を覚えたなど、キンタローに教える理由がない。
笑みを浮かべ問えばキンタローは沈黙の後に、何かを放ちながら答えた。

「…自分で、思い出せばいい」

受け取ったモノは、古そうな――

「ビデオ?」

「見たところで、変わらないかもしれないけどな」

少しだけ寂しそうにそれだけ言うと、キンタローは出て行った。





一体、このビデオが何を見せてくれると言うのか。

彼は、誰なのか。
私にとって、何なのか。






04.11.08〜11 Back   Next →