誰だ、と聞かれたところで、
自分を証明するモノは、名前以外何もなかった。

マジックと俺を繋ぐモノは、何もなかった。







What am I for you?







ここには、もういられない。

その思いだけでふらふらと部屋から出れば、キンタローが呼び止める。



「何処へ行く?」

「…パプワでも探しに」

「…本気か?」

淡々と問う声の中にも、心配してくれている気持ちが窺い知れる。

「あぁ」

「身一つでか?」

「昔もそうだったからな」


4年前を思い出す。
あの時、秘石以外何も持っていなかった。

金も持ってなかった。
血にまみれた金などいらない、と思っていたから。

けれど今は、違う。

俺の金じゃない、と思っているから。
団の稼ぎは一族の稼ぎでもあって、俺はその一族じゃない。

俺のものじゃない。



「…マジックを放っていくのか?」

「…赤の他人だ。
 アイツにとっても……俺にとっても」

見ただろ?と笑えば、キンタローの眉間に皺が寄る。

「じゃ、俺行くから。
 お前が、総帥継げよ。
 グンマには無理だからな」

背を向け歩き出したところで、疑問が浮かぶ。


一体、マジックはどんな記憶の失い方をした?
俺だけを都合よくなんて、忘れられるのか?
キンタローやグンマのことは?


足を止めた俺の疑問に気づいたのか、後ろからキンタローが告げてくる。



「お前が生まれてからの28年間が、曖昧なんだ。
 俺がルーザーの息子だということも、グンマが自分の息子だとは解っている。
 だが、それだけだ。
 それに纏わる記憶がない」

振り返り見た、キンタローはいつもと変わらず無表情のまま。
けれどそれを聞かされた俺は、無様にも血の気が引いた。

「そんなの…」

――そんなの、まるで俺だけを最初から忘れたかったみたいじゃねぇか。






「シンタロー、それでも出て行くのか?」

悔しくないのか、と言外に告げてくる。

悔しいに決まっている。
哀しいだの怒りを覚えるなど、とうに通り越して悔しいだけが残る。


あれだけ、馬鹿みたいに構っていたのは何だ?
どこまでもどこまでも、追いかけてきてたのは誰だ?
愛してる、と言っていたのは?


どれも、嘘だったのだろうか。
それとも、いつも忘れたかったのだろうか。



そう思ってしまうと、悔しさも消え去る。
残るのは、虚無感だけ。





「…もう、いい」

呟く声は、酷く情けない。
けれど、どうにもできなかった。

何も考えたくなかった。

再び背を向けて歩き出す。
行くあてなどないくせに。

本当に、何処に行くのだろう。
4年前飛び出したときのように、心を癒す出会いはあるだろうか。

そこまで考えて、笑ってしまった。

もし今パプワたちと再開できたとしても、癒されることはないだろう。
胸にできた空洞は、どんなことでも塞がりそうになかった。






04.11.07 Back   Next(Side.K)