――愛してたよ、と彼は笑って言った。
あの胸が痛むほどのキレイな笑みで。






What am I for you?





    

その瞬間、ガラガラと音を立てて崩れていく。
昔の…いや、今の私が崩れ、
その先にあったのはどうしようもないほどに愛しているシンタロー。

何故、忘れていたのだろう。
他の何を忘れていようが、シンタローのことだけは忘れてはいけなかったのに。

何よりも大切な存在なのに。




どうしようもない後悔が襲う。
恐らく信じられないほどに情けない顔をしているに違いない。

もう振り返ることなく歩き出したシンタローに、こんな顔を見られなくてほっとした。
それと同時にどうしようもない後悔以上に、シンタローを思い出したことが嬉しかった。

あのまま忘れて生きていたのかと思うと、ぞっとする。
そんな生などいらないとさえ思う。

それを壊し思い出させてくれたのは、シンタロー。
他の誰でもない唯一の存在のシンタロー。

あぁ、だから私はシンタローが好きなのだ。
改めて、その存在の愛おしさを思う。

が、その愛おしい存在は離れていくばかり。

思い出したのに。
思い出させてくれたのに。





「シンちゃん」

君でもなくシンタローでもなく、シンちゃんと呼んだ。
それでシンタローは気づくから。
気づいてくれるから。 

シンタローは肩をビクリと震わせ立ち止まった。
数瞬躊躇うかのように沈黙し、振り返る。

ここ最近見ていた、何処か怯えるような不安げな顔で。





ごめんね、忘れていて。
ごめんね、そんな顔をさせて。
ごめんね、私の気持ちに巻き込んで引きずり込んで。

ごめんね。
それでもどうしようもないほどに愛している、
と言ったら、笑って許してくれる?






05.08.12 Back   Next(Side.S) →