想像すらもつかなかった。 アンタは死ぬまでずっと、俺のことをウザイくらいに構い続けると思っていたんだ。 What am I for you? 明日、遠征先から1ヵ月ぶりに本部に帰れる。 溜まった疲れを癒すようにベッドに倒れこんだ途端に、見計らったかのように電話が鳴った。 それは一族だけが使う回線のモノで、嫌な予感が胸をよぎる。 そしてそういった予感というものは、よく当たるのだ。 「シンちゃん!」 電話を取り上げれば、 毎晩のようにかかっていたマジックの声とは似つかぬ高い声が、酷く焦りを滲ませ名を呼んでくる。 嫌な予感が、じわじわと侵食していくのを感じた。 「…グンマか。どうした?」 「シンちゃん。お父様が…撃たれた」 撃たれた? 誰が? マジックが? 嘘だろ? アイツは秘石眼を持っているんだぞ。 眼魔砲ぶっ放しても、片手で笑いながら受け止めるヤツなんだぞ。 そう思うのに、声が震えた。 「…じょ…う…だんだろ?」 「…本当だよ。今、高松がキンちゃんと手術してる」 グンマの声も震えている。 今にも泣き出しそうに震えている。 いつもはすぐに泣くくせに、ピンチに陥った時グンマは泣かない。 我慢して耐えようとする。 …だから、本当なのだ。 マジックは、撃たれた。 それも酷く悪い状態。 「…何処を撃たれたんだ?」 「………」 「グンマっ!」 「……あ…たま」 最悪だ。 目を閉じ、訳の解らぬ衝動を押し殺そうと耐える。 「…………シンちゃん。 そっち終わったんでしょ? 早く帰ってきてよ」 「…すぐに発つから。 夜明けまでには、そっちに着く」 「うん。待ってる。 だから、早く帰ってきてね」 ツーツーとしか伝えなくなった電話を静かに置いた。 硬く閉じた瞳の奥には、見慣れたヘラヘラと嬉しそうに笑うあの顔ではなく、 困ったように笑うマジックの顔が浮かんだ。 半日かけてヘリポートに降り立てば、白衣をなびかせ俺を必死に見つめてくるグンマがいた。 両手は胸元で硬く握り締められていて、俺はヘリから降りられず立ち止まった。 グンマが今から口にする言葉を聞くのが、怖かった。 だけどそんことがグンマに解るはずがなく、グンマは駆け寄りその口を開く。 「シンちゃん」 「…親父は?」 「…手術は成功したよ。 でも……」 グンマは、その先を言いよどむ。 「意識が…戻らないのか?」 ドクンと心臓が大きく軋み、ドクドクと早鐘を鳴らす。 グンマは初めて俺から視線を外し、足元を見つめる。 それから、おろされていた両手を強く握り締めた。 「グンマ!」 声を荒げてしまい、グンマの肩がビクリと揺れた。 「…意識は、戻ってる。 でも………記憶がないんだ」 「な…に……」 グンマの言っている意味が、うまく脳に伝わらない。 理解することを拒否している脳から逃げるように視線を彷徨わせれば、グンマが俺を見据えていた。 瞬間、強烈に悪寒が走ったのと同時に、グンマは更なる言葉を吐き出した。 「全然ないワケじゃない。 ただ、シンちゃんの記憶だけがないんだ」 その言葉を聞いて、俺は駆け出した。 後ろでグンマが何か叫んでいたけれど、振り返らず走った。
08.11〜 ← Back Next →