「拾ったんだ」 突然、 総帥室に訪ねてきて、シンタローが言った。追憶の果て
「シンちゃん、何を言って…」 戸惑う私に、迷子になってたから、とシンタローは言う。 けれど、迷子になってたから、って、何それ? 犬や猫なら歓迎するけど、それは違うよ? だって、それは人間じゃないか。 鮮やかな黄金の色をした髪と、冷たいアイスブルーの瞳を持つ少年。 「捨て…」 「捨ててきなさい、とか馬鹿みたいなこと言わねぇよな?」 私の言葉を遮って、シンタローは先制をかけた。 そんなことをされたら、 どんなに反対したくてもできるはずはなく、ただ押し黙るだけ。 ただ視線が交差する。 このまま、時が止まってしまえばいいと思うくらいに、 私はシンタローの影に隠れる少年を、シンタローの傍にいることを酷く拒んだ。 それでも時は残酷に過ぎ行き、 シンタローは私が了承をする気がないと悟り、見切りをつけたように言葉を告げた。 「じゃ、暫く俺が預かるから」 それだけ言って、出て行った。 その傍を、少年が付いて行く。 シンタローの服をきゅっと掴んだ仕草は、心細そうにも見える。 でも、それは本当の姿なのだろうか。 その子どもを知っている。 きっと、他の誰よりも知っている。 有り得ないとは思うのに、それでもアレが誰だかを知っている。 けれど、思い出せないのだ。 アレがいつの私なのか。 自分のことなのに、思い出せない。 思い出したくもない過去。 鏡を見ることすら厭うほどに、自分を嫌っていた過去。 父が亡くなる前ならばいい。 まだ、素直に泣いて笑っていることができた私ならいい。 けれど、総帥を継いだ後だったなら――…
06.04.24〜08.06.08 ← Back Side.m →