「ちょっと出かけてくる」

本を読んでいたロイにそう告げれば、顔を上げ俺を見て変な顔をした。

「何?」

「いや、懐かしいと思ってね」

「何が?」

「その制服。私も着ていたからね」

それは、ロイの過去に俺が触れた瞬間。






Strange student life.






学校に行くのは久しぶりだった。
本当は既に単位を取っているため、別に行かなくてもいい。

けれど学校に行くことは、今の家を俺にくれたじいちゃんの願いだったから、
なんとなく規定の年数だけは席を置くことにしている。
学校側も俺がいたほうが名が上がるからと、そのへんのことは容認してくれている。

だから、学校に行くのは年に数えるほど。
それも授業を受けに行くわけではなく、書き終えた論文を渡すために行くだけ。

こんな学校生活を、じいちゃんは望んだわけではないことは解っている。
でも、あんな団体生活は苦手なのだ。
息が、詰まってしまう。





「エドワードくん、論文出来上がったのかい?」

丸眼鏡の人のよさそうな教師が、訊ねてくる。

「はい。これ」

「ありがとう」

教師は受け取りながら、困った表情をした。
そして、いつもと同じ言葉を吐き出す。

「授業に出る気はないかい?
 君にとっては、つまらない授業かもしれないけれど」

「考えておきます」

教師と同じようにいつもの言葉を吐き出せば、教師もまたいつものように苦笑を浮かべる。

「この前、君の論文を読んだよ。
 専門誌に載ってたものを。
 相変らず君の観点は凄いね」

「そんなことないです。
 論文で金稼がなきゃ生活できないから、単に必死なんですよ」

「…まだ、家を出てるのかい?」

「帰りたくないんです。
 アイツの稼いだ金で生きていたくないんです」

笑って言い切れば、教師は困った顔をして言いよどむ。

「それじゃ、帰ります。
 また数ヵ月後に、来ます」

サヨウナラと言い残して、踵を返す。




学校は、好きではない。
国一番の学校だというのに、知ってることを何度も教えるとこが嫌い。
生徒の相容れないものを見るような目が嫌い。
俺をアイツの子どもとしか見ない教師の目が嫌い。



卒業まで、あと2年。
その間ずっと、こんな茶番を続ける。
じいちゃんは、きっとこんな姿を見たら哀しむだろう。

ごめん、じいちゃん。
届かないと解っていても、空に向かってそう呟いた。






07.04 『Strange student life.』=奇妙な学生生活。
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