目が覚めた時、もう隣にロイはいなかった。
キングサイズのベッドに横たわる自分の姿しかなかった。
The morning which surely comes.
「…別れの言葉くらい言ってけよ」
呟いた言葉が、虚しく室内に響いた。
窓からは朝日などではなく、昼間の強い日差しが覗いている。
のそりと起き上がり、揺れるカーテンを見ていた。
白いカーテンがゆらゆらと揺れる。
遠くで子どもの楽しそうな甲高い笑い声が聴こえる。
昨日まではその声を聴いてはふたり顔を見合わせ笑いあったのに、今はただひとり。
少し前まではどうとも思わなかったその声が、今はただ寂しい。
起き上がった身体を再び、ベッドに沈めた。
何もかもが、虚ろ。
ゆったりと幸せに流れていった日々が遠い。
階下で、カチャリと扉が開く音がした。
心臓が馬鹿みたいに跳ねる。
もしかして、と期待を抱く。
絶対に違うと知りながら、それでも期待してしまう。
シーツから飛び上がり、次第に近づく音を逃すまいと聴きながら、
もうすぐ開くであろう扉を見つめる。
カチャリ、と再び音が鳴り、扉が開く。
覗いたのは、淡い金の髪。
よく知った金の髪。
期待した黒ではない。
「…呼ばれてないけど、来ちゃった。
あの人、出て行ったんだね」
微笑とも苦笑ともつかぬ笑みで、アルが笑った。
目の前にいるのはアルなのに、アルでしかないのに、
それでも、もしかしたら、って馬鹿みたいに見つめていた。
「…ごめんね」
何に対してか解らない呟かれた言葉。
けれど、その言葉に冷静さが戻る。
「…いや、いい。
……騒ぎ、酷い?」
訊ねれば、アルは苦笑した。
「かなりね…だって、英雄の帰還だもん。
セントラルは大騒ぎだよ」
「…そっか」
答えながらも、何処か遠い話にしか聴こえない。
「…大丈夫?」
心配そうに訊かれても、よく解らない。
「…多分」
「…そう。
でも、あの人笑ってたよ。
だから、兄さんも笑ってよ。
すぐになんて、言わないから」
「そのうち、な」
そう言って、シーツの海に沈む。
入り込む日差しが、眩しい。
前へ進まなければ、と思った。
例え作り笑いだとしても、
笑ってれば、それがいつか本当になる日が来ると思って。
けれど、まだそんな余裕がなくて、
振り切るように、逃げるように目を閉じた。
ごめん、と小さくアルが呟くのが聞こえた。
何もアルは悪くないのに。
そんなことさえも言えないほどに、弱った身体と意識を手放した。
願わくば、目が覚めたときには、
作り物でもいいから、笑ってやれることを祈って。
05.012.01
『The morning which surely comes.』≒必ず来る朝。
← Back Next →