犬を拾った。
黒くて、大きい犬を。


図体のデカイ犬は、俺を見て威嚇することなく、
来る?、と訊ねた一言に、何も言わずについて来た。






Family play.






「兄さん、何それ?」

家に帰れば、アルが眉間に皺を寄せ訊いてくる。

「拾った」

「拾ったって…」

納得がいかない目で、俺と犬を見比べる。

「いいんだよ。
 それより、お前帰れよ」

その言葉に、アルは傷ついた顔をする。
けれど、それを見なかったように言葉を重ねる。

「母さんがまた心配する」

「…兄さんが帰ってこない限り、母さんは心配すると思うよ」

痛いところをついてくる。
けれど、帰るなんてことはできなくて。

「アイツがいる限り帰らねぇよ」

「アイツって…そんな言い方ないよ。
 僕たちの父さんじゃないか」

「アル、帰れ」

冷たく言い放てば、アルは、ごめん、と呟いた。
アルが謝ることなどないけれど、それを言えるほど心は広くない。

「…いいから、帰れよ」

「また、来るから」

アルはもう一度、ごめん、と呟き帰っていった。
その小さな背中に、温かかった頃の家族のぬくもりが一瞬見えた気がして少しだけ胸が痛んだ。







何もする気が起きなくて、電気もつけずにソファに倒れ込む。
拾った犬は連れ帰ってきた時から一歩も動かずに、玄関の扉の横に立ち尽くしている。

「来いよ」

呼べば、拾った時と同じように、無言で傍に来た。
座るように促せば、丁度頭の横に座る。

「なぁ、お前名前は?」

「…ロイ」

呟く声は低く心地よく、酷く落ち着く。

「…ロイ、お前いい声だな」

告げれば、ふっと犬が笑った。
柔らかく笑う中に、何処か痛みが見え隠れする目。

両手を伸ばし、頬に触れる。
少し低めの体温が、手のひらから伝わってくる。
声と同じくらいに、落ち着く体温。

「温かいな」

「温かくないよ…冷たいよ」

痛みを耐えるように、黒い目が閉じられる。
もっと、見たいのに。
頬に触れていた手を首に絡め引き寄せ、瞼にキスをした。
驚くことなくゆっくりと再び開けられた目には、漆黒の目とそれを薄く覆う涙が。
もう一度引き寄せ、涙を啜る。

「温かいよ」

「君のほうが、温かいよ」

そう言って笑うロイは、やっぱり何処か痛みが見え隠れする目をしていた。






04.06.22 『Family play.』=家族ごっこ。
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