腕を伸ばす。
管にではなく、アルの身体へと。

それはぬくもりと心臓の鼓動を伝えた。






Egoistic love 4.






この身体は生きている、それを思うと涙が流れた。

アルへの謝罪の気持ち?
ぬくもりを伝えなかった鎧とは違うという喜び?

何に対しての涙なのだろう。



「…楽になりたかっただけなのにな」

酷く情けない声が漏れ出た。

「楽になる、ってなんだろうな」

「休めばいい」

彼の声が静かに響く。
振り返れば、彼はまっすぐに俺を見ていた。

「君は頑張りすぎたんだよ。
 だから、もう休めばいい」

「俺も、休みたいよ。
 でもそれをアンタが止めるんだろ」

休めばいい、と言うくせに、それを阻むのは彼だ。



「そうだね。
 君が言う方法で休むと言うのなら、私はどんなことをしてでも止めるよ。
 けれど違う方法で休むと言うのなら、私はどんなことをしてでもそれを優先するよ」

「違う方法なんて思いつかない」

「だから君は休めばいい」

「どうやって?」

休み方など知らない。
もう限界なのだ。

気を緩めれば逃げ出したくなる。
放棄したくなる。

いや、気を緩めるまでもなく、今すべてを放棄しようとしている。
それほどまで侵食は進んでいる。




「私のことを考えればいいよ」

「何を…言ってるんだ」

この期に及んで、彼は何を言うのか。
鼻で笑おうとするのに、彼の怖いくらい真剣な目がそれを許さない。

「言っただろ?
 私は君を愛している。
 だから、君も私を愛すればいい。
 アルフォンスくんより、ずっとね。
 そうして、君は私のことだけを考えればいい。
 他の余計なことなど考えればいい」

「…アンタのエゴを受け止めろと?」

「そう。
 そして、私も君のエゴを受け止める」

だから、何度言えば彼は解るのか…。



「俺のエゴはアンタには向かわない。
 アルにしか向かわない」

「そうかな?
 君のエゴはしっかり私に向かうよ」

彼は楽しそうに笑う。
それを見て、恐怖よりも不快が増す。

「向かわない」

言い切っても、彼は笑うだけ。

「向かうね。
 私がいる限り死など選ばせないから、君は生き続けなければいけない。
 その中で君は一番楽に生きられる方法は、私を想うことだと思うよ」

「…何…言ってるんだ?
 それはどう考えても、アンタのエゴでしかない。
 俺のエゴは、そこにはない」

「そうでもないよ。
 楽に生きること――つまり私を選んだ時点で、君のエゴは私に向かう筈だよ」


彼の言っている意味が、よく解らない。
ぐちゃぐちゃと頭の中で、彼の笑みと言葉が混ざりあう。






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