人は何をもって生きているとし、
何をもって死んでいるとみなすのだろう。






Egoistic love 1.






無機質な病室で眠るアルの身体には、幾本もの管が繋がっている。
静かなこの部屋で漏れる音は、点滴が落ちていく音だけ。

「アル…」

何度、この名前を呼んだのだろう。
そんなことも解らないほどに、何度も何度も名前を呼んだ。
けれど、アルは応えてはくれない。




――3年。
アルの身体を取り戻したあの時から、3年が経った。
それなのに、アルは目覚めない。

肉体は呼び戻すことに成功したが、彼の意識が戻らない。
それは、魂が消滅したということなのだろうか。

考えることすら恐怖だったその想いが、今はただ無感動に頭を浸透していく。



俺は、一体何度弟を殺せばいいのか…。






握り締めた右手が、ギシリと機械音を立てた。
未だに機械鎧の右手は、罪の証だとその存在を見せつける。

「…アル、どうすればいい?」

応えぬ弟に、答えを求める。

「なぁ、アル。
 俺、疲れた。もう、本気で疲れた」

ひとりであちこち飛び回っても、
アルをここに残していることが気になって、すぐに戻ってきてしまう。
そんなことでは禄に文献も漁れず、何も成果がでない。

それに、ひとりは辛い。

「…アル、終わらせていい?」



最初に罪を犯したあの時から、暗い思考が少しずつ自分を侵食していた。
けれど、アルがいてくれたからその侵食は緩やかだった。
でも、歯止めとなるアルは3年前からいない。

侵食は急激に速度を速め、今はもう限界にきている。



アルがいてくれたから、未来を見れた。
どんなに小さな可能性にでもかけられた。

それは、ふたりだったから。
ひとりでは、なかったから。

でも、今はひとり。
この先に、何を望めというのか。



アルが意識を取り戻すのがいつなのか解らない。
今日か、明日か、十年先か、それとも――永遠か。


もう、待てない。
ひとりで、待てない。


だから、終わらせていい?
すぐに俺も行くから…。







04.06.27〜
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