今更…なのかもしれない。
けれど、背中を押されたこの気持ちに決着をつけるのは、今しかないと知っていた。






The other side of a door.







明日また行く、と言いながら、
必要以上に行かないと決意した部屋を今、目の前にしている。

外から見た時、この部屋には電気が点いていなかった。
けれど、何故か彼がまだいると確信に似た思いを感じている。
それは、単なる願望でしかないのかもしれないけれど…。

扉に手をかける。
しかし、そこから手は動いてくれない。

今更になって、心臓がどくどくと暴れ出す。
扉に触れる手が、震え出す。



何を…何を言えばいいのだろう。
何をすれば、いいのだろう。



先ほど少尉に後押された気持ちが、小さくしぼんでいくのを感じる。
彼に、何を伝えればいい?

彼と対峙した時の気持ちが甦る。
愚かだ、と思った。
距離を考えることすら無理な、そんな関係でしかないのに。


扉に触れる手を離す。

どうすれば、いい?
この扉を開けることも帰ることもできず、呆然と立ち尽くす。

今しかない、と知っている。
今を見逃せば、もう二度と彼と向き合う機会がないことを知っている。

それなのに、手は扉へと伸びてはくれない。


今しかないのに。





…そうだ。
今しか、ないのだ。

どんな結果が待っていようとも、今しかない。


もう一度、扉へと手を伸ばす。
震える手を押さえつけながら、ゆっくりと扉を開けた。







06.11〜14 『The other side of a door.』=扉の向こう。
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