これは愛なのか、情なのか。
	
壊れてしまった君を見て、思うのはそのことばかり……。










椿

「兄さん、こっちだよ。  椿が咲いてるんだ」 雪が舞い散るのも気にせず、嬉しそうにサスケが笑う。 純真無垢な幼い笑顔でサスケが笑う。 サスケ。 お前、今幸せ? 「兄さん、ちゃんと聞いてる?  椿が咲いてるんだよ。  早く見てよ、綺麗なんだよ」 繋いでいた手を離し、サスケは俺の服を引っ張って駆け出す。 頬を紅潮させて、はしゃぐ。 連れてこられた場所には、確かに椿があった。 赤い、赤い、寒椿が。 雪が一面を覆い尽くし、それでもなおちらつくなか、その寒椿だけが色彩を放っていた。 白と赤のコントラスト。 まるで、あの時のようだね。 でも、お前は覚えてなんかいないんだろ? 「な、綺麗だろ?」 「あぁ、綺麗だね…」 「だろ?  俺、雪の中で見るこの寒椿が好きなんだ」 「どうして?」 僅かな期待を胸に訊く。 その問いにサスケは恥ずかしそうに俯き、 けれど勢いよくその顔を上げて言った。 「兄さんみたいだから!」 期待は、静かに砕け散った。 ねぇ、サスケ。 その兄さんって誰のこと? お前の本当の兄のこと? それとも、――俺のこと?

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