← Back毒
「飲んで」 笑顔で突き出されたのは、透明の液体が入ったビン。 「何?」 「何だと思う?」 検討もつかなくて、きつく閉められた蓋を開けてみると、 鼻につく独特の臭いがした。 「…俺に、毒を飲めって?」 「うん」 屈託のない笑顔で、答えられる。 「…馬鹿だよ、アンタ。 ホントに、馬鹿だよ」 「うん。知ってる」 自嘲気味に笑うなよ。 「飲んでくれる?」 少しだけ困った顔をして、子どものように訊いてくるアンタは、 見ていて痛々しかった。 「飲んでほしいんだろ?」 さらに、困った顔をしたけど、 それでも、確かに、確実にアンタは頷いた。 「うん。飲んで欲しい」 だったら、断る理由なんてないよ。 もぅ一度、閉められた蓋を開けた。 臭いから、毒の種類が解る。 即効性ではない。 どちらかと言えば、遅効性。 そして、毒の強さも中途半端。 毒に慣らされた身体には、 これだけの量じゃ死ねるか助かるか微妙なところ。 効いてくる時間と毒の量を考えると、死ぬか助かるか、かなり曖昧。 俺より毒に詳しいアンタは、何を思ってこの毒でこの量を用意したんだ。 「なぁ。 アンタはどっちを望んでる?」 「それを訊くの?」 泣き出しそうな、でも、微笑んでるような、そんな曖昧な表情。 「…悪い」 決められなかったんだよな。 どっちも、アンタの願望。 助かっても、助からなくても、 アンタのひとつの願いは叶い、もぅひとつの願いは叶わない。 どっちを選んでも、アンタは本当には満たされない。 こんなことでしか、俺の気持ちを信じられないアンタは、本当に馬鹿だよ。 そして、 それに応えてる俺も馬鹿だよ。
2003.03.16