なぁ、神さま。
あんたがいるというなら、教えてくれ。
あの時、殺してくれと俺が頼んだのなら、あの人は俺を殺してくれた?
痛み
雨が降る。
赤い、赤い血の雨が。
あの時は、ただただ恐怖で怯えながらその中にいた。
父や母、使用人たちの死体が次々と増えていくのを、何もできず見ていた。
でも、今は違う。
自分が誰かを傷つけ、殺し、血の雨を降らしてる。
奪われるモノの痛みを知っているのに。
強くなって、アイツを殺すためだけに、誰かの大切な人かもしれない命を奪う。
憎しみは、憎しみしか生まないってことを知っているのに。
それでも、誰かを殺してでも、自分は強くならねばならない。
――そうでなきゃ、生きている意味がわからない。
ピリっと頬に痛みが走った。
死にぞこないの敵が、最期の力で投げたクナイが当たったらしい。
咄嗟に放ったクナイが喉に突き刺さり、もぅ敵は絶命していた。
まだ微かに痛む頬を拭う。
ぬるりとした感触がした。
血を拭い去りたかったのに、人を殺したばかりの手は当たり前だけど血まみれで、
頬は余計に血で汚れた。
手も、顔も、服も何もかも血で汚れている。
辺りも血の臭いにまみれてる。
目の前には3人の死体。
俺が、殺した。
何を、やっているのだろう。
残されたものの痛みを知っているのに。
どうして、俺は誰かを殺しているのだろう。
さっきまで答えは頭にあったのに、それはぼんやりと霞んで消えた。
もぅ、何もかもが解らなくなった。
何も解りたくなかった。
ゆっくりと握ったクナイを首にもっていく。
力を入れて斯き切れば、何もかも終わる。
ほら、後は力を入れるだけ。
ポタリと小さなしずくが地面に染みをつける。
赤ではなく、透明なしずく。
血ではなく、涙だった。
終わりたいのに、終われない。
まだ、終われない。
クナイを持っていた腕を力なく下ろした。
「やらないの?」
気配も感じさせず、突然問われた。
「…いつから見てた?」
「最期の敵に不覚にも顔を傷つけられたあたり」
そう言いながら、まだ握っていたクナイを取り上げられる。
「で、やらないの?」
切先を俺の鼻先に向け、真顔で訊く。
「そういう、アンタは止めようって思わなかったのか?」
向けられたクナイを奪い返そうとしたが、軽くかわされる。
「思わなかったね」
即答された。
「自分の生徒が自害しようってのに?」
「ナルトやサクラだったら止めたけど、サスケなら止めないよ」
くるくるとクナイを回しながら、何でもないことのように言われた。
「…」
「理由訊かないの?」
今は、意味を訊くのが恐い。
自分に対しての価値が見出せない今は、これ以上の否定の言葉を拒んだ。
もし、訊いてしまったら、もぅ自分はやっていけないだろう。
自分で死を選べない俺は、
死ぬこともできないまま、その言葉に捕らわれ苦しめ続けられるだろ。
「訊かない。
でも、どうしてそんなこと言うんだ?
…死ねないんだよ。
もぅ、苦しめないでくれ」
自分でも、何を言ってるのかよくわからないことを口走ったと自覚した。
でも、混乱する頭の中ではろくに考えることができない。
アンタはひとつ溜息を吐いて、答えた。
「それが答えだよ。お前は死ねない。
だから、お前なら止めない。
ついでにわざわざ訊いたのは、お前がどこまで自覚してるか知りたかったから。
自覚してないようなら、自覚するように促そうと思ったからだよ」
その言葉に顔を上げると、視線があった。
アンタの目には哀れみと同情の色が見えた。
自覚なら、したさ。
アンタの思惑通りに、アンタの言葉で。
すべてを放棄したいのに、まだできない。
まだ、生きなければならない。
それは、俺が俺だけの生を生きているワケじゃないから。
アイツに殺された一族すべての断ち切られた生の分も生きて、アイツを殺さねばならないから。
重圧が重くのしかかる。
それから、開放されたいのに、開放される術はひとつしかない。
死なんて簡単なものでは終われない。
まだ、生きなければならない。
「まだ、俺は死ねない」
「そう。」
それだけ言うとアンタは踵を返した。
そう。
まだ、俺は、死ねない…。
2003.02.16〜2003.03.15
冒頭の『あの人』は、イタチ。
← Back