「好きな人と生まれ変わっても、また一緒になれたら幸せだね」 アカデミー時代、 サクラやイノたちがきゃーきゃーと騒ぎながら言っていた言葉をふと思い出した。 生まれ変わっても、好きな人となら一緒にいたい? 好きな人、という対象は何を言う? 生まれ変わっても一緒にいたい相手のこと? アイ ノ コクハク 目の前にはボケっとした面で、窓の外を眺めるカカシ。 窓からは、雪がちらついているのが見える。 いつの間にか部屋に入り込んでいて、いつの間にかそれが普通になっていた。 いつもと同じ。 気がつけば、一番一緒にいる時間が長い相手。 一緒にいる時間が長い相手だけれど、それが好きな相手なのかは解からない。 カカシは笑いながら、好きだよー、と間延びした言い方でたまに言うけれど、実際のところは解からない。 ただ、可哀想にと思って哀れんでいるだけなのかもしれないし、単なる暇つぶしなのかもしれない。 そんな関係。 そのくせ、身体の関係があるのはおかしいのかもしれないけれど、 女みたいに妊娠するわけでもないから互いに便利なのかもしれない。 そんな相手に声をかける。 「なぁ、アンタ。 生まれ変わっても俺と一緒にいたい?」 「は? 何いきなり」 外を見ていたカカシが間抜け面で振り返る。 「生まれ変わっても俺と一緒にいたいかって訊いてるんだよ」 「うわー、熱烈な愛の告白?」 「馬鹿か?」 思いっきり白けた視線を送ると、そりゃ残念、と笑った。 「で、どうなんだよ」 目を逸らさずに、少しの変化も逃さずにその目を見る。 けれど、その目は一度も真実を映し出したことがないということを知っている。 「訊いてどうするの」 カカシは薄く笑う。 さぁ、どうするのだろう。 訊いて何を自分は得るのか。 答えられずに、ただ見つめる。 「お前は、一緒にいたい、とでも言って欲しいの」 「…」 「サスケ、ちゃんと言いな」 そう言って、手が伸ばされる。 その手に呼ばれるように自分は間を詰める。 手が、手に触れた。 「サスケ?」 カカシが笑う。 普段は間抜け面なのに、時折カカシは酷く残酷な笑い方をする。 何も言わずに、その顔を見る。 手を強く掴まれ、身体はカカシの身体に抱きくるめられた。 それでも、互いに視線は逸らさないまま。 「サスケ、俺が好きって言ってるの、いつも聞いてなかったの?」 「…」 聞いていたけど、だってそれはホントのことじゃないだろ? だって、アンタの目は真実を見せない。 「…お前は酷いね」 カカシがまた笑った。 今度は、自嘲の笑み。 「答えてあげるよ。 答えは、ノー。 生まれ変わっても、一緒にいたいとは思わないよ。 ――傷ついた?」 その言葉に、自分は傷ついただろうか。 自分のことなのに、解からない。 だから、首を振る。 「やっぱり、お前は酷いね。 理由訊かないの?」 からかうように、今度は笑われる。 別に訊きたくなかった。 自分が訊きたかったのは、一緒にいたいか、いたくないかだけ。 それに付随するものなど、別に訊きたくもなかった。 だから首を振ったのに、カカシはどうせだから理由も訊け、と続ける。 「生まれ変わったところで、それは俺でもなければお前でもないから」 よく解からなくて、真実を映さない目を見つめる。 でも、その目はいつもと違っていた。 何となく、信じていいのかもしれない、と思った。 「生まれ変わっても、なんて意味がないんだよ。 環境が変われば人を形作るものも変わる。 つまり、それは俺じゃない。 そして、お前でもない。 自分じゃない自分が誰と一緒にいようが関係ないね。 だから、どうでもいい。 まして、お前じゃないお前が誰と一緒にいても、それこそどうでもいいね。 なのに、お前なんか期待してた?」 そう言って、薄く笑うカカシ。 その理由を聞いて、俺も笑った。 カカシみたいに薄く笑うのではなく、心底面白くて笑った。 「なんだ、アンタ。 アンタのほうが愛の告白してんじゃねーか」 「そうだよ。 愛の告白してるんだよ」 カカシは、柔らかく笑った。 見たことのない、穏やかな笑み。 生まれ出る感情。 気づく、感情。 「俺も、生まれ変わっても、アンタと一緒にいたいとは思わねぇよ」 「熱烈な、愛の告白?」 「さぁな?」 カカシの言うように、 生まれ変わったところで、自分じゃなきゃ意味がねぇ。 そんな自分が誰と何をしようと、知ったことじゃない。 それなら、今を楽しめばいい。 今さえ、楽しければいい。 それに必要な相手は、都合のいいことに隣にいる。 それで、いい。 それだけで、いい。
04.02.21〜06.03.21 ← Back