「誕生日おめでとう」

その言葉と共に、カカシがスイカを持ってきた。
よく冷えたそれを縁側で肩を並べて食べる。






誕生日に約束をした。

「アンタ、何歳?」 「…26。9月で27」 ぼんやりと目の前に咲く向日葵を見ながら訊けば、曖昧に笑いながらにカカシが答えた。 今日から数ヶ月間だけ、13歳の差。 でも、数ヶ月すればそれは14歳の差にまた戻る。 「順当に行けば、アンタ俺より先に死ぬな」 我ながら嫌なことを言っていると思う。 けれど、カカシは笑って訊いてきた。 「寂しい?」 寂しい? …寂しいのだろうか。 カカシがいなくなった生は。 けれど、考えようとしたところで気づいた。 忍なのだから、どちらも普通に生きるよりも死が近い。 だから、俺が先に死ぬ確率もそれなりに高いわけで…。 「俺が先に死ぬかもな」 呟けばカカシは、答えになっていない、と言った。 「どっちが先に死ぬかなんて解らない。  だから、そんなことを考えても仕方ないでしょ。  俺が訊いているのは、俺が死んだら寂しいかどうか」 どちらが先に死ぬかどうかを考えても仕方がない、と言いながら、 死んだら寂しいか、と問うてくるカカシも矛盾している。 けれど先に訊き出したのは自分なので、改めて考えてみる。 …考えると、割と寂しいのかもしれない。 ナルトやサクラとは違う位置に存在する人間。 その人間がいなくなったら、喪失感は大きいだろう。 「寂しいかもな」 ぼんやりと考え付いたことを言えば、カカシが笑う気配が伝わる。 「連れて行ってあげようか?」 隣を見れば、カカシはやはり笑っていた。 「何処へ?」 「俺が死ぬ時、一緒に連れて行ってあげようか」 笑っているのに、冗談だと流せない何かがある。 カカシは時折怖いことを言う。 けれど、それにももう慣れた。 だから、驚かない。 「遠慮する。  やらなきゃならないことがあるからな」 驚きもせずぼんやりとしたまま答えれば、カカシはふっと笑った。 「未来のない生を生きるのも、  未来が途絶えるのも一緒だと思わない?」 「未来のない生って何だよ」 野望が果たせない、とでも言いたいのだろうか。 「野望を果せていなければ、果すためだけに生きるんでしょ。  それって生きていると言える?  それに、果していたら果たしていたで、お前は何を目標に生きるの?」 相変らず、嫌なことを言う。 野望ためだけに生きている、と言っても過言ではない。 その存在はあまりにも大きく、俺の生と深く絡み合っている。 果たせても果せなくても、捕らわれ続ける。 けれどそれが俺の存在意義だから、 今更変えることなどできないし、変えるつもりもない。 溜息を吐き出せば、タイミングよくカカシがまた問う。 「連れて行ってあげようか?」 自分が死ぬ時に、俺が傍にいないという考えはないのだろうか。 じっと顔を伺えば、変わらず笑みを浮かべ再び怖い言葉を吐き出す。 「連れて行ってあげようか?」 この笑顔に、まるめこまれてきた。 流されてきた。 それならば、生が尽きる時もカカシでもいいのかもしれない。 「野望を果し終えていたらな」 気がつけば、そう答えていた。 カカシは笑った。 俺も笑った。 誕生日に、死ぬ話をした。 誕生日に、死ぬ際の約束をした。 誕生日に、条件付で殺されてもいい、と約束をした。
04.07.22 サスケ、誕生日おめでとう。 今年は、ちゃんと『おめでとう』と言えました。 が、内容は如何なモノかと…。
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