カカシとふたりだけの任務で訪れた国は、木の葉と違い明るかった。
窓から見下ろした視界の端は、色とりどりの人工の光が放たれている。

赤に、緑に、青に、金。
電飾で彩られた世界。

人によっては温かい雰囲気を感じると言うが、自分には単なる光にしか見えない。
人工の光は、人工の光でしかないのだから。






だから、神様――
「何見てんの?」 振り返れば、風呂上りの濡れた髪をタオルでガシガシと拭くカカシがいた。 いくら暖房をつけているといっても、上半身裸というのはどうだろう。 風邪をひくとも思えないが、馬鹿だとは思う。 そんな考えが頭をよぎったけれど、口にするのも馬鹿らしく、一瞥しただけで視線を街へと向けた。 そこは相も変わらず、人工的な光を放っている。 「サスケってば、何見てんの?」 そう言って、すぐ横まで来て窓の外を見る。 「何? 街見てるの?」 「…」 答える気にならず無視するが、カカシはひとりで続ける。 「電気つきすぎ。異常に明るくない?  何で?   …あぁ、クリスマスだからか」 ひとりで喋ってひとりで納得して、馬鹿みたいだ、とは思うのだけれど、 引っかかる言葉があって、思わず訊いた。 「…クリスマスって何だ?」 「あぁ、木の葉の街では祝わないから、サスケは知らないのか。  クリスマスってのは、どっかの国の宗教のお祝いだよ。 「くだらないな」 「何が?  宗教が? それとも、神を信じるということ?」 「全部」 「全部?」 「居もしない神に縋る宗教も、縋るしか能のない人間もくだらない」 言って視線を絡ませると、カカシは笑った。 「お前らしいね」 「そういうアンタはどうなんだ?」 「何が?」 「どっかの宗教に入ってるのか?」 「何それ?   お前、俺が誰かに縋るような人間にでも見えるの?」 「まさか」 言って笑ったら、カカシも笑った。 「解かってんじゃん」 「なぁ、アンタにはアレがどういう風に見える?」 再び、視線を街へと落とす。 カカシも街へと視線を向ける。 「宝石箱を引っくり返したみたい。  幸せが詰まっている、そんな感じ」 その言葉に、何故か幻滅する自分がいた。 自分勝手なことを思っているとは思うのだけれど、 どこかでカカシは自分と似ていると思っていたせいか、その言葉は聴きたくなかった。 だから、もう街を見るのを止めようと視線を部屋に向けた時、クっと喉で笑う声が聴こえた。 見上げると、カカシが口の端を上げている。 「何? まさか、お前信じたの?」 何?、と視線で問う。 「嘘に決まってるだろ?」 カカシは言いながら、視線を街へと投げる。 「どう見たって、何度見たって、アレはいつも以上に明るい街。  単に、人工的な光が意味もなく光っている。  それだけだろ?」 その言葉を聞いて安心する自分がいた。 そして、直接は見えないけれど、 窓ガラスに映ったカカシが馬鹿にした笑みを浮かべているのが見えて、また安心する自分がいた。 「サスケ、お前はどう思うの?」 楽しそうに訊いてくるカカシ。 きっと答えは解かっているのだろう。 「訊くまでもないな」 「だな」 また、ふたりして笑った。 意味もなく、笑った。 あの意味もない人工の光を見て、温かいと感じるやつがいる。 幸せだと感じるやつがいる。 けれど、俺もカカシもそんなのは感じない。 あれは、ただの電飾だ。 ただの、光だ。 それを訊いたら、そいつらはどう思うのだろう。 神を信じないことを哀れむのだろうか。 なぁ、神さま。 あんたは何をしてくれると言うのだろうな。 あんたは何もしてくれはしなかった。 あの時、俺の神は死んだ。 恐らくカカシの神も死んでいる。 どういった理由があったかは知らないが、カカシも自分以外何も信じてはいないだろう。 ただの人工の光を有難がるのは、幸せなやつらだけだ。 まだ、絶望を知らないだけ。 もしくは、何かに縋れるだけ、幸せなのだろう。 あぁ、なんだ。 俺って、幸せじゃないんじゃん。 光を有難がることもなく、自分以外の他人に縋ることもできない。 ただ、信じるのは自分のみ。 それは、まさしく――孤独。 「サスケ、何笑ってんの?」 見上げればカカシが不思議そうに訊いてくる。 「別に」 別に、ただ、思っただけだ。 自分が幸せじゃないってことを。 「何か楽しいことあったの?」 「いや、気づいただけだ」 「何?」 「俺って、幸せじゃないって」 笑って言ったら、カカシも笑った。 「お前今更気づいたの?」 「まぁな」 「馬鹿だね」 「うるさい」 ふたりして、また笑った。 意味もなく笑った。 幸せの定義が何かを知らない。 あの電飾を見て何か思うことを言うなら、俺は幸せじゃない。 神を信じること、信じられることを言うなら、俺は幸せじゃない。 幸せじゃ、ない。 でも、笑っている。 例えそれが意味のないことだとしても、笑えている。 だから、不幸でもない。 相変らず視界に映る電飾は、ただの光でしかない。 けれど、不幸ではない。 だから、神様。 アンタはいらない
2003.12.07〜12.20 12.21, 12.24 微修正。 甘くないふたりに、メリークリスマス。
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