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Mittäter 5

部屋は真っ暗で、あの日と同じように月明かりだけが光源。 カカシの表情は、よく見えない。 「諦めたはずだったのに。  終わったはずだったのに」 「カカシ?」 カカシが俺を抱き寄せる。 「俺は、お前を救えない。  そう解っているのにな…」 「あぁ、言ってたな。  でも、俺にはよく解らない。  救うとか、無理だとか、よく解らない…」 「いいんだよ、それで…」 カカシの手が優しく髪を梳く。 「アンタ、言ってたな。  『あんな想いを抱えて生きるくらいなら、卑怯と罵られたほうが、全然いい』って。  あれ、どういう意味だ?」 カカシの手が止まる。 視線を絡ませる。 カカシも逸らさない。 「『俺が救えないなら、いっそ殺してしまおうか』」 カカシはまだ、視線を逸らさない。 息が、詰まる。 心臓が早鐘を打つ。 カカシが、笑う。 「そんな想い。  身勝手な、俺のエゴ。  救えなくて、どうしようもなくて、サスケを傷つけた。  身体も心も傷つけた。  これ以上関わったら、お前を殺しそうだった。  救いたいのに、救えない。  無力な自分なんて見たくなかった。  …ごめんな」 カカシが、笑う。 困ったように、泣き出しそうに。 強いと思っていたコイツは、自分と変わらぬ単なるヒトだった。 大人も子どもも関係ない。 ヒトには感情がある。 痛みが、ある。 そう、痛みが、ある。 けれど、今の俺には痛みが、ない。 「望んだことなのにな…」 「何が?」 「痛みが感じなくなること」 「…」 「蟲って、死ぬ直前とかって痛みを感じなくすることができるんだろ?  それを昔聞いて、羨ましく思った。  痛みを感じなかったら、その分強くなれるって思ったから」 「サスケ…」 カカシの手が俺の髪を優しく梳く。 「痛みは、必要だよ」 「あぁ」 「痛みがあってこそ、限界を知り、無理をしなくてすむんだ。  痛みがないってことは、危ういんだよ」 「…」 「痛みは、必要なんだ」 痛みは、必要。 あぁ、その通りだな。 身体の痛みは相変らず、感じない。 けれど、心の痛みなら、 なんとなく取り戻せた気がする。 そのおかげで、アンタが解った気がする。 アンタの気持ちが解った。 なぁ、俺もう少しで痛みを取り戻せそうだよ。 「離れるなよ」 「…」 「もう少しで痛みを取り戻せそうなんだ。  心の痛みは、アンタのおかげで取り戻せた。  だから、身体の痛みもアンタがいたら取り戻せそうなんだ。  だから、離れるなよ」 カカシが俺を見る。 俺も、カカシを見る。 「言ったろ?  これ以上関わると、お前を殺しそうになるって。  無理だよ。  今日で最後、お前とは関わらない」 困ったように笑うカカシ。 顔を歪めてまで、笑うなよ。 無理して、笑うなよ。 最近のアンタはいつもそんな顔だ。 痛みは、大事なんだろ? 無理しそうな自分を止めようとするんだろ? 「アンタ、今無理してないか?」 「…」 「俺と一緒にいてもいなくても、アンタは無理するんだろ。  痛むんだろ?  それなら――」 一緒にいたいと願ってはいけないのか? お互いいてもいなくても、痛みは生じる。 それなら、いっそふたりで痛みを…。 ――痛みを? 分け合う? まさか。 そんなことはできないのはお互いに解っている。 俺の痛みもアンタの痛みも、それは違う痛み。 痛みは分け合えない。 それなら、そう――。 「それなら、共犯者になろう」 アンタも俺も利害一致で一緒にいよう。 利益も害もごちゃ混ぜにして痛みを誤魔化して、一時の幸福を味わおう。 な? それなら一緒にいられる。 「いやに、子どもじみた考えだね」 カカシが笑った。 相変らず困ったように笑っていたけれど、もう泣き出しそうではなかった。 「いいんだよ。  俺は子どもだから」 「そうだね」 カカシが俺を抱きしめる。 俺もカカシを抱きしめる。 「殺したくなったら、殺れよ。  俺は、簡単にはくたばらないから…」 「あぁ。  くたばらないように、俺が修行つけてやるよ…」 一緒にいれば、痛みを生じさせる相手。 その相手と一緒にいたいという想いは、当然の如く難しい。 けれど、それでも一緒にいたい。 噛みあわない利害一致の関係でもいい。 ただ、アンタが必要なんだ。
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