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「銀ちゃんは、土方が好きなアルネ?」

唐突に、神楽が言った。













壁 に 咲 く 












「はぁ?
 いきなり、何言っちゃってんの?」

お前、いきなりにもほどがあるだろうが。

「だから、質問に答えるアル」

うん、だから、お前人の話聞けよ。

「崖の上で、私と土方が落ちかけてたらどっちを助けるアルか?」

「どっちって…」

お前、それ答える以前の問題じゃね?
どっちも余裕で這い上がってくるだろ。




「こういう問題は、
 実際の力とか潜在能力とかは無視するアルよ。
 それに、どっちかを選べば、どっちかは死ぬってのも前提アル」

いや、いきなりそんな有得ないこと言われても…、って思うけど、
答えを要求する神楽に仕方ないとばかりに答えてやる。

「…お前」

「私アルか?」

自分が選ばれたくせに、神楽は不思議そうな顔をする。

「…お前ね、その答えが欲しかったんじゃねぇの?」

「…だから、私って言ったアルか?」

ムっとした顔で神楽が訊いた。

「違ぇよ。
 訊いたのが土方でも同じ答えをするさ」

それは、本当に。
でも、神楽はまだ納得がいかないらしい。

「どうして?
 銀ちゃんは、土方が好きなのに私を選ぶアル?」

不思議そうに訊いてくる神楽の頭をポンポンと軽く叩く。

「どっちかひとりしか助からねぇんだろ?
 いいんだよ、それで」

ひとりしか助からないのなら、それでいい。
アイツも何も文句なんて言いやしねぇよ。



















「俺とゴリが崖から落ちそうになってたら、
 お前、どっちを助ける?」

書類に向かう土方に訊いた。

「はぁ?
 お前いきなり何言ってんだよ」

土方は振り向きもせず、嫌そうに言った。

まぁ、俺もいきなりだと思うんだけどね。
こんな質問なんて、神楽みたいにいきなり訊くようなことかもしれねぇよな。

「いいから、答えろって。
 ちなみに、どっちも今にも落ちそうっての前提で、
 普段の力とか能力とかナシで考えろよ。
 あと、どっちか助けたらどっちかは死ぬから、その辺のトコよろしく」

「はぁ?
 お前も暇人だな」

土方は、呆れたように呟いた。



「暇人でもいいから、答えろよ」

「…愚問だろ」

土方は、煙草の煙を吐き出しながら小さく笑った。

「…そうだな」

答えなんて、解りきったことだった。
だから、ショックなんて受けない。













お前は、ゴリを選ぶんだ。
大好きだもんな。

俺よりも、ずっと。













「俺もさ、同じこと神楽に訊かれたんだ」

「そうかよ」

土方は、興味が無いようで書類に向かったまま。
けど、気にせず喋る。

「神楽とお前どっちを助けるかって」

「で、お前は、あのガキを選んだってワケか」

小さく、口の端が上がったのが見えた。
自嘲だったらいいな、とか下らないことを思った。


「そう。
 お前と一緒な」

「ふーん。
 じゃ、お互いさまじゃねぇか」

「だよな」

ゴリを選んだ土方。
神楽を選んだ俺。

選ばなかった互い。
選ばれなかった互い。





「じゃ、帰るわ」

「さっさと帰れよ」

犬を払うかのように手を振られる。
それも、こちらを見ないまま。

でも、お前、
途中から書類に向かう手、止まってたよな。

結構、気にしてんじゃね?






だから、教えてやるよ。







「俺は、神楽を助けるけど、
 そのせいで、お前が崖の下に落ちるってんなら、
 神楽を助けた後に俺も崖から飛び込むよ」

その言葉に漸く振り返った土方。

俺も、なんて言葉は当たり前のように返ってこなかったが、
揺らぐ目を見れば、それだけで十分だった。

それが嬉しくて、
じゃあな、と微笑して帰った。






例え、お前がゴリを選んでもいいんだ。

その後に、俺を選ぶと言うのなら。
俺がお前のいない世界なんて要らないと思うくらいに、
俺を想ってくれてりゃいい。

それが無理でも、
一生、傷となってお前の中に俺という存在が残るならそれでいい。



どんなカタチでも、お前を束縛できるのなら俺は満足なんだよ。






08.12.16~12.29 Back